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《elfyroid》が俺のマンションにやってきた②
「おー……どうしたんだ、優二――お前が電話してくるなんて珍しいな~……」
「おい、兄貴……てめえ、なんつーもんを贈ってきたんだよ!?」
「ん~……なんつーもんを贈ってきたかって……?それ、母さんと父さんが丹精込めて作った野菜と果物のことか~……おーい、母さん……優二がもう野菜と果物を贈ってくんなって……っ……」
「あ、兄貴……っ……わ……悪かったって……今の言葉は忘れてくれっ……」
普段はおっとりしているものの、怒ったら鬼のように恐ろしくなる母に兄貴が告げ口しようとしている地獄のような光景を自然と頭に思い浮かべてしまった俺は、慌てて電話口の向こうにいる兄貴の優一へと必死で謝る。
「なーんてな……今は二人共、農作業していて此処にはいませーん……と、まあ――冗談はそれくらいにして何の話だっけ?」
「…………」
血の繋がりがある実の兄貴に対して本気でイラッ……とした俺だったが、必死で怒りを抑えるとそのまま眉間を寄せつつも本題へと入る。
そうだ、こんな下らない会話をするためにこのバカ兄貴に電話した訳ではないのだった――。
「家で獲れた野菜と果物の話じゃねえっての……それよりも何で俺が興味すらなくて欲しくもない《elfyroid》を勝手に贈ってくんだよ――しかも、何だよこれ……パッケージのエルフの台詞が《起きて、朝だよ――お兄ちゃん》って……ふざけてんのか?」
「いいじゃないか……優二、お前――昔は弟だか妹だかを欲しがってただろ?俺がお前にそれを贈ったのも――たった一人の弟のお前に対しての愛だよ……お前は昔っからナルシスト気質で自分大好き人間で、そういう相手すらいないんだろ?」
「そういう相手……って……バカ兄貴、てめえ……まさかっ……」
「その《elfyroid》の可愛子ちゃんに……慰めてもらえ。身も心も……夢々ちゃんから振られた悲しみを慰めてもらう代わりにっ……」
――ぶちっ……!!
と、俺は半ば強引に兄貴からの電話を切った。
(ったく……何が振られた代わりにコイツに身も心も慰めてもらえだ――俺が夢々に振られたのは……てめえが夢々に好かれてるせいだっつーの……)
はあ、と思わず深いため息をついた――。
俺はナルシストで自分大好き人間と思われがちなのは分かっているが、別に心底からナルシストな訳じゃない。確かに俺は顔も性格も良いと自負している人間だが、それでも――普通に好きな奴くらいはいるし、そいつに振られりゃ傷付きもする。
ずっと昔から――夢々が好きだった。
そりゃあ、うっとおしくも思ったりもした。しかし――やはり自分は幼なじみの夢々が好きなんだ、と最近改めて思い直したのだが――遅かった。夢々は――ゆうちゃんと親しげに呼んでくる俺ではなく兄貴の事が好きなんだと彼の口から直接聞いた時には――まるで世界中がぐる、ぐると回っているくらいの目眩に襲われてしまうのではないかと錯覚する程に強いショックを受けた。
俺の本当の気持ちを夢々に告げる事も出来るといえば出来るのだが、怖がりで優柔不断な俺はそれすら告げる勇気が出ない。
このまま、幼なじみのゆうちゃんとして接していた方がいいのではないか――と決断し、今に至る。
憂鬱な気分が再燃してしまったせいなのか、僅かに開きかけている段ボール箱の元に歩み寄った俺は《elfyroid》が入っているパッケージを掴むと、あれほど興味がなかったというのに説明書へと目を通し始めるのだった。
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