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そうだ、ネムリという名をつけよう①

※ ※ ※ 「……何、ねえ――何なの……僕がせっかく……学校サボったゆうちゃんのために授業のノートを届けにやってきたっていうのに……昼間っからこんなハレンチな事してるなんて――嫌がらせ、嫌がらせなの?」 「…………も、申し訳ございませんっ……!!」 相変わらず――本気でキレた夢々には頭があがらない。 なので、全身全霊で夢々に許してもらうために土下座して額を床に擦りつけながら、必死で許しを乞う情けない俺――。 「はあ……わしの新たな旦那さんは――なんというか、情けないのう。わしが、せっかく慰めてやろうというたにも関わらず……ムムが来たからと途中で止めよって……」 「…………は?ゆうちゃんさ、いつの間に《elfyroid》買ったわけ?それでもって何で僕には何も言わないわけ?僕とゆうちゃんの間に隠し事はなしだって――ずっと前から約束してたよね?」 「そ、それは……っ……」 けら、けらと笑いながら今は元の金髪碧眼のショタっ子の姿に戻った《elfyroid》が好き勝手に俺に向かって言い放ってきたが、その後すぐに鋭い蛇のような目で夢々から睨まれたため途端に口を閉じた。 ――夢々、お前だって兄貴と親密な関係だって……俺に黙ってただろ、と言いたくなったが、ぐっと堪えて言いたい言葉を必死で飲み込もうとする。 「これ……いや、この《elfyroid》は兄貴から贈られてきたんだ……ただの兄貴の悪ふざけだよ……だから、夢々……そんなに怒らないでくれ……本当に、ただそれだけなんだ」 「ゆ、ゆうちゃん……!?」 ぐっと堪えて、我慢して我慢して――考え抜いた言葉がこの微妙な言葉だった。もしかしたら、俺は切なそうな顔でもしていたのだろうか――。それっきり、夢々は俺を責める事もなく《elfyroid》を睨み付ける事もしなくなった。 「あー……なんか、もういいや。あ、そうだ……ゆうちゃん――この子に名前、つけてあげなよ……それだけ……じゃあね……明日は学校サボるなよ!!」 「あ、ああ……夢々……お前も――《elfyroid》持ってんのか?」 「明日――学校に来たら、見せてあげる。今は家で凍眠中だから……じゃあね、おやすみ……ゆうちゃん」 ひら、ひら――と手を振りながら夢々は自分の部屋(といっても隣だが――)に帰って行くのだった。 夢々の口から凍眠という言葉を聞き、俺は何の気なしに《elfyroid》の様子を見てみる。すると、先程まで喧しかったのが――まるで電池が切れてしまったかのようにスヤスヤと眠りこけているヤツがいた。 しかし、夢々の言う通り――名前がないのも余りにも不便なため俺はスヤスヤと眠りこけて恐らく凍眠状態となっているヤツに【ネムリ】という名を付けようと心に決めたのだった。 ――決して、ヤツに名前がないのは可哀想だと思った訳じゃないんだからな。

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