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3-1 初めての野宿

 初めてマコトと野宿をする事になった日、ただテントを出しただけで彼は随分と楽しそうにしている。タープまで張ると「本格的!」と更に喜んでいる。  どうやらマコトの世界ではテントを張って野外に泊まるというのは特別な事らしく、イベントだと言っていた。同時に、子供の頃の思い出だとも。  年の半分くらいをテントで生活している俺からすると、既になんの感情もなく、ごく普通の生活風景になっているのだが、それでも今日は少し特別に思う。誰かと一緒にテントで寝るというのは、思えば初めての事だった。  テントの周辺に結界を張り、中で眠る。  俺の眠りは少し浅くなっていた。隣で無防備に眠るマコトの寝顔を見ていると、少し落ち着かない感じがした。こうして誰かと野宿をするのが初めてだからだろう。同時に、彼を守らなければと気を張っているからだ。  とても、無防備な寝顔だ。こうして隣にいる男が、多少気があるのだと疑いもしない。なんて愛らしく、そして残酷な仕打ちだろうか。この全幅の信頼を、俺はきっと裏切れない。  そうして浅い眠りを繰り返していると、不意に草を踏む音が聞こえた。  耳を澄ませ、周囲を探る。今出ていくような距離ではないし、不慣れなマコトを一人残してゆくわけにもいかない。この結界は外からの害意を弾きはするが、中からの出入りは簡単にできてしまう。マコトが焦って結界の外に出てしまう方が危険だ。  やがて樹木を切り裂くミシミシという大きな音がして、マコトは驚いて飛び起きた。  恐怖に怯える表情、所在なく彷徨う手が何かを探している。俺はその手をしっかりと握り、ここにいるのだと教えた。 「なっ、なに?」  目に見えて震え、歯の根も合わないマコトが可哀想だ。思えばここまで一度もモンスターに会ってはいない。こんな事の方が珍しかった。この世界にきて、これがマコトにとって初めてのモンスターだ。怯えても仕方がない。 「片付けてくる」  このままではのんびりと寝られない。マコトの体力を考えると深い睡眠は必要だ。  俺は立ち上がり、外を見る。うなり声から狼系のモンスターだろうと推測する。  この程度、結界で十分防ぐことができるが、問題は数が増える事だ。こいつらは危険と判断したり、狩りをするときに仲間を呼ぶ。そうなると煩い。  行こうとしたその足を、不意に掴む手があった。見ればマコトが俺の足を掴んで首を横に振っている。震える手が、「行って欲しくない」と全力で主張している。  怖いのだろう、当たり前だ、彼の世界ではモンスターなどいなかったのだから。  震える体をそっと抱き寄せた。カタカタと歯が鳴るほどに怯えている。今にもその黒い瞳から涙がこぼれ落ちてしまいそうなのを見て、俺は改めてこの腕の中にある温かな者を守らなければと思った。 「大丈夫、このテントの周りには結界を張ってある。突破されることはない」 「それなら…」  「行かないで」という言葉が聞こえそうな様子に、俺は立ち上がって入り口へと向かった。そう言われては行きたくなくなってしまうきがした。

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