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4-2 ティアマット討伐

 夕刻になってそこに辿り着いた俺は、その足取りは感じた。  明らかにいた、そう感じる爪痕や食い荒らしたモンスターの残骸だ。それらを見て、更に追っていく。  その足跡は、遙か先の山の麓まで続いているようだった。  夜間も少しの休憩を木の上などで過ごし、移動に費やした。そうして標的を見つけたのが二日目の昼を過ぎた頃。  奴は酷く怒り狂っていて、手に負える状態じゃなかった。結界に閉じ込め、そこに魔法を放って弱らせてようやく討伐を完了した。  だが同時に、奴が何かを守っている事に気づいてその巨体をどけた。  そこには小さなティアマットの子供がいた。  産まれてまだ数日だろうそれは、庇護がなければ死んでしまうほどに弱い。そしてその子供の周囲には壊れた馬車や人の残骸が転がっていた。  おそらく闇商人だろう。あろうことか、ティアマットの卵を盗んできたんだ。  モンスターの卵は栄養価が高く高値で売れる。またそればかりではなく、一部の鳥系モンスターやドラゴン系モンスターは産まれて最初に見た者を親と認識する。そうした特性を利用してモンスターを手懐ける者もいる。  当然犯罪だ。それぞれ棲み分けた領域から卵を盗めば生態が変化してしまうし、卵を追って親が襲ってくる事もある。  昔はそうした親の襲撃を使って町を焼き払ったりする戦法があったほどだ。  頼りなく小さな泣き声を上げる子供をどうしたものか。俺は考えて、竜化してその子を摘まむと町とは全く違う方向へと飛んだ。  向かったのはこうしたモンスターを保護する施設だ。ティアマットはそれなりに数が少ない。奴らは数年に一つしか卵を産まないからだ。  そうしたモンスターの子供を保護し、育てて生息域へと戻す活動をしている奴らがいる。そこに預けたのだ。  そんな事をしていて、気づけば三日がたっていた。町へ戻りギルドへとゆくと、中は大変な騒ぎになっていた。煙が溢れていたのだ。 「マコト!」  火事だと思い中に飛び込めば、そうした混乱はない。一階の食堂に人が集められているが、逃げだそうという奴はいない。  何かがおかしい、そう思っていると階段を降りて来たギルドマスターのランドルフと目が合った。 「ユーリス!」 「ギルマス! 何が…」 「マコトが攫われた」 「……え?」  事態を正確に理解するのに、少しかかった。喉が渇くのか、何かがつっかえる。強ばった体が動かない。思考は停止してしまった。 「どう…して?」  マコトは素直で物わかりがいい。理由も説明し、彼もそれに納得し、危険性も理解していた。そんな彼が不用意に扉を開けて誰かを招き入れるはずはない。  何が…この煙が原因か。 「とにかくこい」  言われ、動かなくなりそうな体をどうにか動かした。そうして部屋の前にきた俺は、騒がしい周囲を呆然と見た。  部屋に中は荒れていない。だが、ドアの前に何かを溢したようなシミがある。  近づけば知っている匂いだ。無害だが大量の煙が発生する液体の匂いだ。 「コイツを扉の前にぶちまけて、煙を見たマコトが火事だと思って慌てたんだろう。窓を開けているが、そんなんでコイツの煙が薄くなるわけじゃない。むしろ空気の道が出来てどんどん部屋に流れ込んだだろう」  その時の彼の焦りを思い、苦しくなる。きっととても怖かっただろう。いや、他人の痛みを真っ先に考える優しい子だ、火事を知らせようとしたのかもしれない。 「犯人の目星は…」 「見慣れん男が二人、二階へ上がって行ったのを見た奴がいる。はぐれもんの冒険者で、マコトの事をやたらと聞いていた。ここいらの宿に泊まってない、確認した。おそらくモグリの一軒家か、闇商人が用意した宿だろう。今、犬族の奴に匂いを…って、おい!」  そんなの待っていられない。俺は駆け出した。  もっと早く戻ってくるべきだった。ティアマットの子をあの場に放置していれば、もっと早く戻ってこられた。なのに…。  竜人族も鼻がいい。マコトの匂いは俺がよく知っている。俺はその匂いを辿るように、町の中を走った。

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