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5-1 罪と甘美な花の蜜
宿に戻って、俺はマコトの体を綺麗にした。タネヤドシの媚薬が肌に残っているだけで体は疼くはずだ。
意識がないままのマコトの体を抱きながら、中も指で綺麗に洗った。綺麗に着せて、解毒薬を飲ませる。そして後ろにも解毒の薬を指に纏わせて塗り込んだ。
媚薬に犯された体は指の一本程度簡単に飲み込んでいく。
「っ」
強い匂いを放つのに、その気にはならない。奇妙な感覚に、俺はただただ罪悪感に押し潰された。
こんな事になるなら、側にいればよかった。ギルマスに預ければ大丈夫だなんて、楽観的な考えなど持たなければよかった。国際問題になってもいいから、竜化して飛び越えてしまえばよかった。
他国で竜人族が竜化するのはよほどの緊急事態か、危険域からの脱出以外は認められない。敵意があると取られ、国際問題になりかねない。
ティアマットの子を連れて行ったのは、危険域からの脱出扱いになる。だから問題なかったが。
「すまない…」
未だに体は熱を孕み、指先が触れるだけでヒクリと震える。
おそらく盛られた媚薬は純正のタネヤドシの媚薬ではなく、混ぜ物がされていたんだろう。より深い快楽を得るためにそのような薬を作る商人もいる。そういう薬は解毒薬でも効果が現れるのが遅い。
「すまない、マコト…」
苦しかっただろう、怖かっただろう。部屋に煙が充満しただけでも怖かったはずだ。
人族は炎だけでも死んでしまう。炎を弾く竜人族の分厚い装甲もなければ、天人族のような全精霊への加護もない。魔人族のようにいかなる場所でも深淵の闇に逃げ込む能力もない。
人族は、全ての種族の中で一番弱い。
人族も獣人族も子の数は多いのだが、その分生命の危機も多い。
多少の炎でも死んでしまう、剣なども簡単にその体を貫く、数センチの水に顔を埋められるだけで死んでしまう。たかが二階から落ちただけでも死ぬ事があるんだ。あまりに弱い。
マコトはそれを十分に理解している。だからこそ、怖かっただろう。
男に体を弄ばれ、意図していないのに熱を持つ自身を感じて怖かっただろう。
どれだけ叫んだのか。どれほど俺の名を呼んでくれたのか。俺はそれに、応えられなかった。
柔らかな体に触れて項垂れて、俺はひたすらに謝っていた。
マコトが目を覚ましたのは連れ帰ってきて一時間ほど後。未だ媚薬に朦朧としながらも、俺を見つけて安堵し、黒い瞳に沢山の涙を浮かべた。
まるで俺の存在を確かめるように腕が伸び、俺の首に絡みつくとそのまま抱きついてくる。俺は驚きながら、それを受け止めた。
「ユーリスさん…」
「すまない、遅くなって」
「ユーリスさん…」
謝罪の言葉しか出てこない俺に、マコトは嬉しそうに柔らかな音で名を呼んでくる。俺の鼻にマコトの甘い匂いが絡みついて、体が燃えるように熱くなっていく。そんな浅ましさに、俺は自身を叱責した。
「すまない、本当に。少し手間取って遅くなってしまった。あんな奴らに触れさせるなんて…」
謝らなければ。思って口にすれば、マコトは涙に頬を濡らしながらも首を横に振る。咎めの言葉がない事に安堵しつつも、俺は俺自身をなじっている。
マコトの体は未だに熱い。潤んだ黒い瞳、薄く開く唇、上気した肌、触れる体の震え。何より薄れない匂いは発情しているのかと思えるほどに濃い。
竜人族は発情期以外でも子を残せるし発情するが、その季節になると余計に酷い。好ましい相手の匂いが鼻先について、常に体を熱くする。
マコトの匂いはそれと同種で、俺は頭の中がガンガンと揺れた。
「…きついのか?」
問いかけて、マコトは震えたまま動きを止めた。逡巡するように唇を引き結びながら、瞳は熱を孕む。明らかに反応しているのが分かった。同時に、求めるように見つめる瞳も分かった。モジモジと股を擦り寄せるその先は、誰の目から見ても腫れて主張をしている。
「さっき解毒の薬を飲ませたが、まだ効いてこないか」
出せば楽にはなるだろう。一度熱を孕んだ体はそう簡単に静まらない。熱を解放した方が楽になるのは理解できる。だが、助けられなかった俺が触れていいのか、これだけは迷った。
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