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6-1 王都到着
アウンゼール王国の首都に辿り着き、マコトを連れて役所へと向かった。周囲を興味深げに見ているようだったが、比較的落ち着いて登録を行っている。
保護後見人には俺がなった。今後、マコトに危険をもたらす者がいた場合は俺が彼を守る立場になる。マコトはどういうことなのか理解していないようだったが、何も言わずに名を書いておいた。
今はスキルを見るために教会にいる。スキルは悪用される事もあるため、基本的に本人にしか知らせない。対象者が精神的に不安定な場合だけは例外的に保護者が知る事ができるが、これは本当に特例だ。
この間に、俺はクエスト終了の報告をギルドにしに行った。今回受けていたのはここ、アウンゼール王国の使者を隣国リトラダール王国へと連れて行く護衛クエストだった。
「おう、ユーリス! 無事戻ったな」
「世話になっている、カトラン」
王都ギルドのギルドマスター、カトランは人族で、元はS級の冒険者だった。怪我を元に引退はしたが、その経験も実力も未だに衰えていない。本人は「年だ、腰が痛い」なんて言うが、とてもそうは見えない50代中程の男だ。
「クエストは無事終わったんだろ」
「まぁ、そっちはな」
「ん? 何かあったか」
カウンターに腰を下ろし、腕輪を魔道具にかざす。これに、討伐したモンスターの情報や、クエスト完了報告が入っている。
そこに出てきたモンスターのリストを見ながら、カトランは首を捻った。
「お前、もしかして街道沿いに出たっていうティアマットを狩ったのか?」
「あぁ」
「なんでまたそんな面倒を。お前なら無理矢理通れただろう」
モンスターの多い森の中を通れば行けただろうが、マコトがいる。そんな危険を冒すことはできない。結局は彼にとって大変な危険となってしまったが。
「連れがいるんだ」
「連れぇ!」
カトランは素っ頓狂な声を上げた後で、俺の顔をマジマジと見る。ぶしつけな視線が実に不愉快だ。
「お前、パーティー組まなかったろ」
「パーティーじゃない。異世界人を保護したんだ」
「異世界人だと!」
まったく、煩い奴だ。良い奴なんだが声がでかい。至近距離だと耳が痛くなる。
「登録をしてきたばかりだ。今教会でスキルを見てもらっている」
「人にまかせれば良かったろ」
「そんな無責任な事はしない」
とは、言い訳だろう。手放したくなかったんだと、今なら分かる。そして今もそうだ、手放せない。
分かっている、彼の生き方を邪魔してはいけない。スキルによっては本当に立派に生計を立てられる。修行が必要な職種のスキルなら、いい師につくことが彼にとっていいことだ。
だが、そう思う俺の後ろでそうしたくない俺もいる。
「お前、惚れたか」
「な!」
思わず言葉を詰まらせると、カトランはニヤニヤと笑って俺を見た。
「青春だねぇ」
「カトラン」
「で、その子今後も連れてくのか? それなら冒険者はやめとけ。相手のスキルにもよるが、お前はA級だ、怪我させるぞ」
そこが問題だ。
今の生活は年間を通してほぼ旅暮らしだ。マコトのステータスを見るだけでも、そんな生活を年中続けて行く事は難しい。
しかもクエストは人族の国ばかりではない。獣人族の国にも行く事がある。あそこは何かと厄介で、種族によっては強引なのもいる。ライオンの獣人など一夫多妻が一般的で、雄は気に入った相手がいれば強引に攫ってでも手に入れようとする。
そんな場所にマコトを連れて行きたくはない。
「一度国に戻るか」
別に冒険者を天職としたわけではない。国に戻れば王子としての仕事がある。自由にやっていけるのが好きだし、結婚だ子作りだと周囲のソワソワした様子が合わなくて離れていたが、そろそろ良いのかもしれない。
何より俺は、マコトが欲しい。彼をゆっくりと口説き落とす時間と安定も欲しい。
強引な事はしたくないが、話し合い、同じ時間と思い出を共有することで知り合って、穏やかに恋人となっていければいい。
そう思うと、幼馴染みのランセルを思い出す。
丁度2年ほど前か、理想の嫁を見つけたと言ってほぼ無理矢理に連れ帰り、屋敷に閉じ込めるようにしていた。事件も問題も山積みだったが、可笑しな事に上手くまとまって子供ができ、今では幸せ(?)そうにしている。
あそこの夫婦は主に、嫁の度量の大きさなんだろう。
これを聞いたときには驚いたし、正直賛同しかねた。だが今、少しだけ気持ちが分かる。あいつのように拘束はしたくないが、俺は今マコトをどうしても国元に連れてゆきたいと思っている。なんて言って連れて行こうか、その強引さを思えばあいつの事を言えない。
「国に戻るのか?」
「あぁ、そうしようと思う」
「残念だな」
なんて良いながら、カトランは納得したような穏やかな表情で笑っていた。
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