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7-1 離したくない
マコトを連れて、祖国ジェームベルトへと向かっている。
マコトはずっと、何かを考えている。何かを悩んでいるのは分かっている。だが、何を悩んでいるのかが分からなければ俺にはどうしようもない。
聞けばいいのかもしれない。だが、微妙に聞かれる事を拒んでいるように思えるのだ。
竜の国の方が人族の需要は高い。好条件の仕事に就けるかもしれない。そう唆して俺はマコトを連れてきた。
嘘ではない、人族は竜の国では人気が高い。小柄で器用で愛らしく、圧迫感がないからだ。
だが俺は、マコトに仕事なんてさせる気はない。俺はマコトをこの国で口説き落としたいのだ。まずは屋敷に連れて行って、街の案内なんかをしよう。屋敷の中でお茶をしたり、俺の話をしたりしよう。そうして距離を詰めていきたい。
住む場所も俺の屋敷にしたい。家を借りるにはお金もかかる。
マコトは金銭のやりとりにとても敏感で、出来れば借りるという事をしたくはないのだろう。だからこそ、使っていない部屋があるから使ってくれていい。その代わりに、手料理を食べさせてもらいたいとでも言えば納得してくれるはずだ。
なんとも小賢しい。思いながらも止められない。恋は盲目とは良くも言ったものだ。無縁だと思っていた俺が、いつの間にかこんなにも必死だ。
とうとう、人族の国を離れて一番の難所、峠越えとなった。裾野に広がる森もまた、大型のモンスターが出る。俺は首からかけていた笛を、マコトに手渡した。
この笛は同族にのみ聞こえる笛だ。助けを呼ぶものであると同時に、これを持つ者との関係を示している。
この笛自体が、俺の魔力を固めて作っている。それを持つ者は俺の親しい…恋人か、それに準ずる者だと周囲に示している。
例え俺に何かがあったとしても、マコトが無事でいれば俺の屋敷に届けてもらえる。そこで、マコトは安楽に暮らせる。
マコトは不思議そうに笛を太陽にかざしたりしている。その姿が愛らしくて、俺は笑った。
「ここまで来れば同族がいるかもしれない。何かあったらこれを吹いてくれ。同族がいれば、助けてくれる」
「でも、それならユーリスさんが…」
「俺はいざとなれば竜に戻って一声鳴けばいい。俺達の咆吼は一山越えて同胞に聞こえるからな」
「そうなんだ…」
俺の力を込めた笛を、マコトは大事そうに握りしめた。
この日は何事もなく野営を張れた。この森でモンスターに遭遇しなかったのはある意味奇跡的だ。
隣に寝るマコトは、テント生活に少しずつ慣れた。最初の頃のようにはしゃぐことは無くなったが、それでも少し楽しそうに足元が弾む事がある。
耳慣れない鼻歌を聴きながら、俺は時間を過ごす事が心地よくなっていた。
マコトの体力で峠越えは辛いだろうと思っていた。既に人の国から離れている。竜化すればいいのだが、マコトは大きな姿に恐怖心がある。
俺は黒龍族の中でも体が大きい。親友のガロンも大きいが、あれは種族として大型種だ。
黒龍は中型にも関わらず、竜化した姿は大型種と同じくらいある。そんな俺を見て、マコトは怯えるかもしれない。恐怖の目で見られるのは、とても耐えられなかった。
足元の悪い道を歩き、先に立ってマコトを導いていく。なんなら背負ってもいいのだが、多分マコトは乗ってこない。
意外と頑固なんだと最近気づいた。だから前を歩き、マコトが辛そうな所では腕を引き上げている。それですら、マコトは申し訳なさそうにしていた。
半分も登らない所で、今夜は野営を張った。マコトの体力が限界だ。
疲弊した彼にヒールをかけて、怪我がない事を確認して、食事の用意をする。流石にタープは張らずに結界を二重に張り、テントの中で食事をした。
マコトの作った『おにぎり』というのは、携帯にとても便利な形をしている。米はあるがパン食の多い世界で、これは少し驚くメニューだ。だが、程よい塩加減と焼いた鮭が美味しい。
「マコトは何を食べているんだ?」
「梅だよ」
「梅?」
見れば赤い食べ物が入っている。だが、竜人族の中ではあまり見た事がない。
疑問に思っていれば、マコトがそれを差し出してくる。食べていいと言っているようだ。
間接キス…なんて思って少しドキドキして赤い部分を食べた俺は、その刺激的な味に驚いてもんどり打った。
「大丈夫!?」
「酸っぱい!」
じわっと唾液が出てくるような強い酸味に俺は泣きそうだ。竜人族には強すぎる酸味だ。それでも絶対に出したくない。どうにか飲み込んで息をつくと、マコトが水を持って来てくれた。
「大丈夫?」
「驚いた…」
「苦手なんだね。ごめん」
「あぁ、いや…」
興味があったのは確かで、求めたのも俺だから。でも、マコトは申し訳なさそうだ。俺は笑って、ニッコリと笑う。
「美味しかったよ」
言ったらマコトは顔を赤らめて「無理して」と俺に可愛い顔で怒った。
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