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9-2 絶望の咆吼
ガサリと音がする。俺はその音に勢いよく振り向いた。
冷静になれば、分かったはずだ。マコトではない。恐ろしいドラゴンの咆吼に、臆病な彼が近づくはずなんてない。
それでも俺は期待を捨てられなかった。帰ってきて欲しい、姿を見たい、それだけが心を満たしている。
立ち上がり、駆け出そうとして目眩がした。まだ休まなければならないと婆に言われた言葉を無視したからだ。
倒れ込む俺の体を、力強い腕が支える。目に映ったのは月のように輝く金だ。
「ガロン…」
「ユーリス、無理をしてはいけません」
悲痛な顔で言う親友が、俺をそっと座らせる。俺はそんなガロンの腕を掴んで訴えた。
「頼む! 俺の…俺の大切な人が消えてしまった! 俺が行かないとダメなんだ! ガロン頼む、手を貸してくれ!」
「落ち着きなさいユーリス! 話は聞いています。既に国境沿いの関所に話を伝えて人の出入りを監視していますから」
「それじゃ遅いんだ! 彼は…マコトはとても弱くてこの世界の事を知らない。無防備にしていては悪意のある者が攫ってしまうかもしれない! あの子は!」
「落ち着いてください!」
落ち着けるか。俺は必死に言いつのった。もう動けないのに、それでも動こうとしている。立つだけで頭が重く揺れるのに、それでも歩き出さない訳にはいかないんだ。
ヨロヨロと立ち上がり、バランスを崩して倒れそうになる。その背後で困った様な溜息が聞こえ、同時に手が目を覆った。
「!」
「まったく、頑固で融通が利かなくて律儀で。困った奴ですね、お前も」
覚えのある声と、急速に収束する魔力の流れに俺は落ちていく。疲れ切り、弱った俺が落ちるのはとても簡単で、あっという間だった。
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