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9-3 絶望の咆吼
目が覚めると、まだ夜の中。ベッドに寝ていた俺は、昨夜に戻った様な感じがあった。
そうなればいい。俺は二度と間違いを犯さない。あの日が戻るなら、この後マコトはここにくる。不安と緊張に押し潰されそうになりながら、必死に俺に伝えてくる。今なら、俺は冷静に彼を受け止め、己の心を晒せる。
君を愛している。君の心が欲しいのだと。子は、その証しであってもらいたいと。
だが、時が戻る事はない。マコトはここにいない。側にいるガロンとランセルを見て、俺は苦しくて目元を手で覆った。
「目が覚めましたね。まったく、お前はどうしてそう向こう見ずな事をするのです」
溜息をつくランセルが、それでも案じているのは分かる。
「マコトさん、というのですね。彼の行方については探しています。彼を知っているロシュが、今森の中を探しています。屋敷の者も周囲の町に行って特徴の合う子がいないかを調べていますよ」
「まぁ、町に行っているとは限りませんがね。お金を置いて行ったのなら、町にはいないかもしれません。自分の意志で出ていったのなら、お前に見つからないようにしようと思うはず。道を知らなくても歩いて行けばどこかには行けますし」
「ランセル!」
咎めるようにガロンは声を大きくするが、ランセルの言う事はきっと正しい。
マコトは、俺に会いたくない。だからこそ、今日一日呼びかけても応えてはくれなかった。
「そうそう、食事だそうですよ」
場違いな会話に、俺は視線を向ける。
テーブルの上にあったのは、マコトの作ってくれたものだ。卵焼きに、唐揚げに、金平ごぼうという聞き慣れない料理。俺が美味しいと言ったものばかりだ。
「今日の夕方、お前の為に作りたいと言って作って行ったものだそうですよ」
「っ」
涙がこみ上げる。マコトは、これをどんな気持ちで作っていたんだ。マコトは俺の事を、どう思っているんだ。
ランセルが唐揚げの一つを摘まんで、それを俺の口に放り込む。こんなにも美味しいのに、苦しくて飲み込めない。
残酷じゃないか。この料理には沢山の笑顔の思い出しかないのに、幸せしかないのに、それを与えてくれた人はここにいはいない。押し寄せる思いが満ちていくのに、俺はこの場所から動けない。
唐揚げ一つをどうにか飲み込んだだけで、俺はそれらの料理をマジックバッグに入れた。
多分彼が見つからなければ食べる事ができないのに、これしか接点を持てなくて捨てる事ができない。
俺のマジックバッグの中はマコトの作ってくれた料理がまだ沢山入っている。沢山の、嬉しそうな笑顔と共に。
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