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10-1 伝えたい想い

 それからずっと、俺はマコトを探している。どこに行ったのか、最初の足取りを掴めたのは二週間も後だった。  その間、森や国境にも目を向けた。事故にあっていないかと危険な場所にも足を向けた。それでも、マコトの行方はしれなかったのだ。 「一晩の食事と寝床を提供したという薬師の家がここですね」  ガロンが地図の上に印をつける。  森の中にある薬師の老女が、マコトに特徴の似た青年を一晩泊めたと言う。夜も遅くなる時間に、森の中で蹲っているから心配して。見ればフラフラしていて、とても可哀想だったと。一人暮らしの老女は食事を提供し、寝床を提供したらしい。ただ、彼は自分の事をあまり語らず、一晩でいなくなってしまった。 「次に、外套を譲ったという老人の目撃がここ」  川沿いで、魚釣りをしていた老人が服を洗う裸の青年を見て外套を譲ったという。線の細い小さな子で、「これしか服がないから」と言っていたそうだ。服が乾くまで寒かろうと、老人はその子に外套を渡したらしい。 「馬屋に子供を泊めたと言っていた夫婦は、ここでしたね」  森の側で生活している夫婦は、小さな子供が近くに蹲っているのを見つけて食事を出し、馬屋に泊めたという。汚れているから家には上がれないと言って、遠慮したらしい。干し草でベッドを作り、毛布を彼にあげたと聞いた。 「森を狙って動いているけれど、迷っている。だからこそ、出没地点も目的地もはかれない。今現在、どこにいるのか検討がつかない」  ゆっくりと移動しているのは、地図の印からも分かる。けれど街道沿いを歩いていない。森の中を進んでいる。町も通っているのかもしれないが、寝泊まりの場所はいつも野外だ。 「でも、ここから先がまた掴めない。見た目が他の黒龍と酷似しているから、ぱっと見では判断がつきませんね」 「しかも腕輪の認証のない小さな村や町を経由していそうなコースです。今どこにいるかも、判断ができませんね」  転々とする足跡。俺はそれを見て、マコトに目的地なんてないんだと思った。  当然だ、マコトは地図を持っていないし、人族が方角を見るのに使う方位磁針という道具も持っていない。ただ、俺の屋敷から遠ざかっている。それだけが目的なんだ。  それでも、生きている。目撃者がいるなら、マコトはちゃんと生きているんだ。不埒な者に攫われていいようにされているのでも、不慮の事故にあっているのでもない。ちゃんと自分の意志で、生きてくれている。 「安心したかい、ユーリス」  ランセルが困ったように笑う。俺はそれに、静かに頷いた。 「最後の目撃地点の周囲を探してみる」 「その前に食事をしてください、ユーリス。今日は私たちも一緒に食べますから」 「…」  俺はそれに俯いてしまう。  マコトがいなくなって以来、食事が楽しくはなくなった。だからいつもパンと水や、肉をそのまま焼いた様なものになっている。味もへったくれもない、満たされればいいという以前よりも酷いありさまだ。  その時間があるなら、彼を探したい。足取りが掴める前は思わず人族の町まで行ってしまった。その間を一人で乗り越える事は困難だろうと思っていながらも、動かない事の方が苦痛だった。 「今日は私の奥様おすすめのクッキーを持ってきました。これなら適当に食べられますよ」 「悪いな、ランセル」  受け取った物を手に、俺は再び動き出した。

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