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10-3 伝えたい想い

 王都について、手紙に書いてあった店を目指した。そしてその扉を見つけ、はやる気持ちのままに押し開けた。  扉の真正面に蹲って座っていた彼は、突如した大きな音に驚いて飛び上がっていた。そして、目があった。 「あ…」  俺を凝視したまま、マコトは固まっている。  少し、痩せたかもしれない。でも、顔色が悪いわけじゃない。  俺は安堵した。今にも泣きそうな顔をするマコトを見つけて、溢れる気持ちで一杯になる。  マコトだ。生きている、彼だ。ただそれだけで、俺は自分の衝動を抑えられない。  足早に近づいていって、有無を言わせず抱きしめた。腕の中で身じろぐマコトを感じながら、苦しさも嬉しさもせめぎ合うように溢れ出る。  会ったらまず謝らなければ、思っていたのに俺から出てきた言葉は違っていた。 「愛している、マコト」  耳元に吹き込むように、俺は言っていた。  そうだ、この言葉だ。真っ先に俺がマコトに言わなければいけないのは、この言葉なんだ。  拒絶を恐れてずるい方法で手を引き続ける事でも、時間を掛けて彼の心を落とし込もうとするよりも、俺はこの言葉を真っ先に伝えれば良かったんだ。  例え拒まれたって、誠意を持って接して、囁き続ければよかったんだ。何度だって言えばいい。「愛している」「君が好きだ」と伝え続ける事が大事だった。それが出来ていれば、こんな事にはならなかったんだ。 「愛している」 「でも…」  苦しそうな声が言いつのる。分かっている、責められるのは。今更何を言い出すんだと、思っているだろう。  俺は彼に沢山の時間を使ってでも伝えなければならない。俺の気持ちがどこから始まり、どのように育ったのか。君を拒んだとき、俺はどう思っていたのか。浅まし欲望も、小賢しい手も、恥を忍んで伝えて謝らなければ。  そして何度でもこの気持ちを囁く。この機会を与えられた、それを俺は捨てられない。 「ちゃんと言えば良かった。卑怯な手で君を手なずけ、側に置こうとした俺が悪い。何も分からず不安な君を押し切って、ずるずると側に置いた俺が悪かった。気持ちも伝えずにいた俺の間違いだった。すまない、許してくれ」 「ユーリスさん」 「愛している、マコト。君の事が好きだから、側にいて欲しかった。手放せなかったのは俺なんだ。理由をつけて旅を長引かせたのは、離れる理由を与えたくなかったからなんだ」  腕の中で、マコトの頬が赤みを帯びる。ゆるゆると表情が解れていく。  だから、俺は感じられる。俺の気持ちは、言葉はマコトに届いている。そして、拒まれていない。  いくぶん、安心できた。必死さは薄れて、丁寧にマコトを見る。腕の力を緩める事ができる。 「ちゃんと話をしたい。お願いだからもう一度だけ、俺にチャンスをくれないか。ありのままを伝えるから」 「帰っても、いいんですか?」 「勿論だ! あの屋敷を、君の家にしてもらいたい。君が受け入れてくれるまで、何度でも口説くから。気持ちを伝え続けるから」  帰ってきてくれる。俺はその事実だけでもう十分だった。マコトが側にいてくれるなら、俺の世界は動き出す。きっとこれからは、食事も美味しくなる。また、笑う事ができる。  もう、十分に自覚できている。俺はマコト無しには生きられない。

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