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11-1 赤い果実
――貴方の子供、産みます
マコトから出たその言葉を、俺は最初受け止めきれなかった。
マコトが恐れているのは知っている。俺の事を好きだと言ってくれた今でも、恐れがなくなったとは思えない。戸惑い、でも軋むように鳴る心臓の音を無視もできない。
嬉しい。愛しい。
その言葉が溢れていく。
傷つけたくない。無理をしないでくれ。
苦しさも同じように、溢れてくる。
マコトの瞳を覗き込む。柔らかく穏やかで、でも強い意志の光を秘める瞳を。
マコトは逃げていない。ジッと、俺を見て望んでいる。前とは明らかに違う、望まれている。そう、分かる瞳だ。
逃げているのは、俺のほうだ。こんなにして、未だに嫌われる事を恐れるなんてバカでしかない。マコトは戻ってきてくれたんだ、こんなにも傷つけた情けない俺の側に。
そっと、小瓶から薬を取りだした。マコトの手が、そこに静かに重なっていく。そして、沢山の愛しいを乗せてキスをした。
ぎこちない唇を割って、小さく受け入れる口腔を探っていく。震える舌を絡めて、優しく吸った。ビクンと震えた体を抱きしめたまま、穏やかに、時間をかけて、大切に触れていく。
自然と離れたその顔は、赤くトロリと色香を纏っている。愛らしく、扇情的。
小さな体は俺から見ると頼りなく幼くさえ見える事があるのに、この色香は何よりも俺の欲を煽り立てる。香り立つ肌が、より深く誘っていく。
力の抜けた、蕩けるような笑みを見せるマコトの頬にもそっとキスをして、俺は手の平の薬を見つめた。
薬は、真っ赤だった。元が白かったなんて誰が思えるのかと言わんばかりに赤い。そういう実かと思ってしまった。
ドクンと、また一つ鼓動が跳ねる。薬の色は愛情の色。深く赤く色づくのは、互いの心の深さ、求める深さだ。
マコトも俺を求めてくれている。愛してくれている。俺との子を…未来を望んでくれている。
マコトを盗み見ると、マジマジと薬をみている。戸惑っているようなその表情に、俺は内心で笑った。
これは、君が俺に向けてくれる愛情の証し。そして、俺が君を求める証しだ。
「珍しいな、こんなに色がつくなんて」
「不良品ですか?」
不安そうにしている彼に、俺は首を横に振る。
「色の濃さは愛情の深さと結びつきの強さだ。色が濃いほどに強い子供が宿る」
「あっ、じゃあいいことなんだ」
そう言うと、マコトは俺の手からヒョイと薬を取り上げて、躊躇いもなく一呑みにしてしまう。俺は驚いて…でも嬉しさが大きくてそれを見ていた。
嚥下される薬が、徐々に体に馴染んで臍の周りに印が浮かぶ。深く濃く浮かぶそれは、マコトが俺を受け入れる準備が出来た証拠。俺の子を、宿せる証拠だ。
心臓の音がうるさい。分かっている、興奮しているのは。こんなに、幸せな欲もないんだ。大切にしたい、愛している人が俺を望んでくれるなんて。
だが同時に、俺はちゃんと言い聞かせなければいけない。
マコトにスキルがあっても、傷つく事がないわけじゃない。竜人族はアレが大きい。これを受けるのは、小さなマコトの体だ。無理などさせれば壊してしまう。
マコトはしきりに、臍の周りにある印を気にしている。これが何かも分からないのに、躊躇いもないなんて。俺は笑っている。とても、温かな気持ちで。
「早いな」
「なに?」
「薬が体に馴染んで、子を成す準備ができた証だ」
言えば、マコトは真っ赤になった。とても恥ずかしそうな顔をするんだ、可愛い。
俺はマコトをゆっくりと押し倒し、見下ろしている。黒い瞳が俺を見つめて、柔らかく笑っている。そしてその手は、しきりに印を撫でている。
「痛むのか?」
心配になって問いかけた。異世界人のマコトには、薬が合わなかったのだろうか。思って問えば、マコトは楽しそうに笑って首を横に振っている。
「ん? ううん、願掛け」
「願掛け?」
「父さんに似て生まれろよ。俺に似たらチビだぞって」
実に楽しそうに笑って言うマコトを、俺はどうしたらいい?
あまりに可愛く、あまりに愛しく、あまりに疼く。そんな事を言われて、疼かない男がいるものか。
まだ触れてもいない彼の中に、俺は新たな命を既に見たのかもしれない。いや、もっと先も見える気がする。彼の手に抱かれた愛しく小さな命の姿を、俺は見た気がした。
「可愛い事を言われると困る」
「可愛い?」
「俺はマコトに似た可愛い子でもいい。女の子なら、マコトに似てもらいたい」
「俺似?」
「あぁ。だが、そうだな…嫁に出せなくなるな」
「どこまで先の心配してるの?!」
焦ったように目をまん丸にしたマコトの顔が赤い。俺はそれに笑った。本当に、愛しい。
だが本当に、マコトに似た子だったら俺は嫁になど出せるだろうか。
相手を既に査定しそうな予感がする。幸せにしてくれる相手じゃなければ認めない。大切にする相手じゃなければ認めない。
お嫁になど出さない…と言えば、狭量な父と嫌われるだろうな。
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