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12-2 心構え
匂いを遮断すると、マコトの体調は落ち着いた。それでも怠そうだし、微熱はあるように思う。
運ばれた果物を恐る恐る食べていたが、お腹は空いていたのだろう。次々と食べて行くのを見て、俺の方が止めに入った。また気持ち悪くなったらきっと苦しいだろうと。
ソファーにゆったりと腰を下ろし、俺はマコトの肩を抱いて寄り添う。自然、目はまだ平らな彼の下腹を見てしまう。今もどんどん、この体の中で子は育っていく。
「えっと…早いよね」
「そうだな」
「あの…さぁ。実感ないんだけど」
「まぁ、俺も薄い」
「だよね」
戸惑うマコトは、やはり元気がない。どうしようか、そんな表情で頼りなくしている。
俺も戸惑ったが、冷静になれば簡単だ。育て方はまだ分からないが、確かなのは愛せる事。この身の全てで愛し、守っていけることだ。
「まぁ、でも…間違いなく、生まれてくる子は愛せる」
頭を柔らかく撫で、引き寄せてこめかみにキスをする。マコトの匂いがする。激しい欲情の匂いではなく、どこか落ち着く温かな匂いだ。
「…そっか」
俺を見つめる瞳が、不安から抜けて嬉しそうに笑う。俺の可愛い妻は、同時に母の顔もするようになった。
「勿論、マコトも愛している。だから辛いだろうが、心細くしないで欲しい。不安があれば言ってくれ。俺は無骨だから、察してやれない事もあると思う。君は知らない場所で、しかも初めての事で不安が多いだろう。言ってくれていい、支えるから」
「ユーリスさん…」
ウルウルと黒い瞳に涙が浮くのを俺は指の腹で拭い、眦にキスをする。細い体を抱き寄せ、ほんの少しだけ力を込めた。決して、無理の無い程度に。
「ユーリスさん…」
甘える様に胸に鼻先を擦り寄せるマコトを抱きしめ、少し離れてキスをする。触れるだけのそれに愛情をのせて。
「マコト、俺から一つお願いがあるんだが」
「なんですか?」
「その敬語をやめてくれ。それと、俺の事はユーリスと呼んでくれ。俺達は夫婦になるんだ、遠慮なんてしなくていい」
「あ…」
気づいたんだろう。実は俺は、昨日からずっと思っていた。そういう慎ましいというか、遠慮がちな態度も嫌いではないのだが、もうその距離にはいない。
もっと俺に近づいてきてほしい。何より子が生まれるんだ、不自然に思うだろう。
マコトは顔を赤くしながらも、俺の申し出に小さく頷いた。
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