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13-1 シーグルが生まれた日

 穏やかに時が流れていく。  日に日に大きくなるマコトのお腹は、臨月を迎えてはち切れんばかりに膨らんでいる。竜人の子は人の子よりも一回り以上大きいと聞く。それが分かる膨らみだった。  その夜、身じろぐ様子に目が覚めた。マコトは体を丸くして苦しそうにしている。大きなお腹を抱えて、浅く息を吐いていた。 「マコト?」 「うっ…ちょっと待って……」  額からも汗が浮く。俺は、どうしていいか分からずにあたふたするしかない。手を握って、肩を摩ってやることしかできない。 「マコト!」 「ごめん、婆さん呼んで…」  ハッとして、俺は婆の部屋へと走った。  ドアを開け、寝ぼけている婆を脇に抱えてとりあえず走る。これで二度目、婆もされるがままになっていた。  とにかく部屋に放り込み、マコトを見た婆はホクホクと微笑み大きな腹に手を添える。そして、ふむふむと頷いている。  この時マコトは平気な顔をしていて、さっきの苦しみは感じなかった。 「まだ平気な時間があるんですな?」 「はい」 「それならまだまだ。平気な間に食事でも取って下さいな」 「え…」  そんな悠長な事を婆は言うが、とてもそんな事が出来る状況に見えない。俺の方が慌ててしまうが、婆はまったく焦る様子がない。  なんだか、変な感じだ。俺やマコトはこんなにも焦っているのに、時間はゆったりと流れていく。何より産婆をする婆がこれだ。顔を見合わせ、互いにおかしな顔をしてしまった。  何にしても食べられる内に食べた方がいいと言われ、俺は厨房へと向かった。  食べやすい大きさのパンや果物、飲み物を用意して持っていくと、マコトはまた痛む時間なのか苦しそうにしている。 「マコト、痛むのか」 「ユーリス…いっ…」  情けない、こんな時に何もしてやれない。何か、楽な姿勢があるのだろうか。少しでも辛くなくなる方法はないものか。 「腰の辺りを摩ってやるとよいですぞ」  寝椅子でウトウトしている婆が、なんとも悠長に言う。俺は持ってきた食事をサイドボードに置くと、言われたとおりに腰を摩った。 「あっ、それ気持ちいい」  痛そうにしながらも、マコトは笑う。こんな事で楽になるなら、いくらだってしてやれる。俺はマコトが辛い時間はずっと、背中から腰の辺りを摩っていた。  そのうちに、常に辛そうな顔をするようになってしまった。だが、最初よりは少し余裕がある。食べ物も食べられている様子だ。 「順調ですな」  婆が腹部に触れて嬉しそうにする。どうやら出産に向かい、順調に進んでいるらしい。 「もう少しだね、ユーリス」 「あぁ、そうだな」 「男の子かな、女の子かな」 「どちらでも可愛いのには違いないさ」 「もぉ、今から親ばか?」  なんて言って、クスクス笑っている。俺もそれに笑った。  背中にかかわらず、俺が触れる事でマコトは安心したような顔をする。俺ではこの痛みを肩代わりしてやれない。ならば安心させられるよう、少しでも楽になるようにするしかない。

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