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13-2 シーグルが生まれた日
だがそれも、日が高くなった辺りでどうにもならなくなってしまった。
体を丸めて辛そうに息をするマコトは、断続的に襲ってくる痛みに呻いている。俺は腰を摩って、流れる汗を拭ってやるしかできない。
何か、無いのだろうか。何でもいいから、この痛みを少しでいい、肩代わりできないのだろうか。
「マコト、ここにいる。ここにいるから」
「うん、ユーリス。俺、頑張るから」
汗の浮いた表情で、それでもマコトは笑ってくれる。辛いのに、まだ。
なんて強い人だ。なんて、愛情深い人だ。
俺の方が手を取って、その手を握りしめてしまう。愛してると、伝えるしかできない無能な夫ですまない。こんな事でしか、今の君を支えてあげられないだなんて。
「うむうむ、大分産道が開きなさったが、まだまだ狭い」
「そんなの、開くの?」
「当然ですよ。ほら、甘い飲み物なら飲めるでしょう。グッと飲みなさい」
「いや、飲みたくなくて…」
「糖分が大事なんですよ、マコト様。糖分を取ると進みます」
マコトの顔が青ざめる。手に飲み物を持った婆がこんなにも憎く思えた事はない。水は飲んでも食事や果物、他の飲み物は取らなかったが、そういうことだったのか。
「婆、とても辛そうなんだが…」
なんだ、婆がもの凄く凶悪に見える。マコトは怯えるように俺の手を握る。俺はマコトを庇うように立ったが、それで婆をどうにかする事なんてできない。情けない事だ。
お茶の時間になって、マコトの様子は余計に辛くなってきた。握りしめる力に、俺の手が軋む。こんなにも強い力があったのかと、驚いてしまう。
もう、俺が強く背中を撫でてもどうにもならないのか、震えて小さくなっていく。
せめてもと、何度かヒールをかけてみた。傷を癒やすものだが、僅かに痛みと疲労を取る事もできる。背中の、痛むだろう腰や背に何度かそうして緩くかけたが、あまり効果を得られていないようだった。
そのうちに、マコトは強く身を屈めていく。その直後、マコトの腹部は沢山の水で濡れていった。
「破水しましたな。どれどれ」
「いっ! ひいぃぃぃぃ!」
もう声も抑えられないんだろう。激しい痛みに震える肩を抱きしめて、背にヒールをかけ続けている。身が縮こまるとその度に水が腹から漏れ出ているのか、濡れていく。
「まだ完全に開いておりません! これ、腹に力を入れちゃいかん!」
「無理だってぇ!」
「このまま腹の水が全部こぼれたら後々苦しむのはマコト様ですぞ! ほら、息を吐いて上手く逃がしなされ!」
「無茶言わないで!」
まだ産道が開かない。時間がかかる。そう言われ、その間に腹の水がこぼれないようにと婆は無茶な事を言っている。それが上手くできるなら苦労などない。
マコトはどうしても力が入るのか、その度にジョボジョボと濡れていく。
「マコト!」
「ユ…リス……」
「すまない、俺は…俺は何も…」
強い力で握りしめる手を、俺も握り返す。そんな俺の顔を見て、マコトは辛そうに、でも笑った。この状況で笑えるんだ。
「ユ、リス。お願い、力ちょうだい」
「力?」
「頑張れって、言って。愛してるって、言って。俺が、頑張れるように応援して」
そんな事でいいのか。俺は頷いて、そっと大きな腹に触れて撫でた。中の子と、マコトを労るように。
「マコト、平気だ。俺が側にいる」
「うん」
「産まれたら、三人で眠れる」
「そう、だね」
「たまには、二人だけで眠る夜も欲しい」
「あはは、いいね」
笑ってくれる。それに少しだけ、ほっとする。
流れる汗を拭い、手を握って、体を摩って、俺は先の話をした。子供とどうやって過ごそうか、どんな大変な事がありそうか、どこか行きたい場所はないか。
「男の子、かな」
「どちらでもいいさ。元気でいてくれればそれでいい」
「あはは、親ばか」
泣きながら、婆にはしきりに「まだ!」と叫ぶけれど、俺との会話は出来ている。
今は少しでも気を紛らわせてやることしかできない。俺が腹部に触れれば、マコトは「温かい」と微笑む。
「元気だよ、きっと。だって、今も動いてる」
「あぁ、感じているよ」
触れる手に、確かに感じられている。
「おぉ、開ききりましたな。どれ、移動しますぞ」
婆がようやく産道が開いたと言って笑う。それにマコトも安堵したように、既に疲れた顔で笑った。
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