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第7話
何日経ったか知らないけど、俺は長いヒートを終え部屋に一人。
創一郎と俺の名が刻まれた紙を小さく畳んで、日用生活品の小さな空容器に隠し持つ。
見つかればゴミとして廃棄されてしまうからだ。
もう逢えない運命。
引き裂かれた半身に孤独に狂ってしまいそうになるが、腹に宿ったであろう愛しい子供が俺を引き留める。
交わした言葉は多いようで少ない。
身体と魂の会話は俺を強引に、そして優しく抱き込んでくれた。
「創一郎、創一郎行かないで。」
紡いだところで無情にも扉は閉ざされた。
俺は『No.002』でしか無いのだと国に知らしめられる。
俺は消えて無くなった創一郎の香りを部屋の中で探す。
名前の入った容器にのみ創一郎を見つけるが、それもいつまで保つか分からない。
俺は頸を噛むあの音を忘れない。
ソレが俺を縛る痛みの無い儀式だったとしても、俺はあの男に心が囚われてしまった。
出産後に別のαに抱かれる事を考えるだけで、異様な恐怖が襲ってくる。
俺はいつまで俺でいられるのだろう。
番でもないのに創一郎も苦しんでいると伝わってくる不思議な感覚。
噛み跡が無くとも番になれるのだろうか?
腹の子供が俺と創一郎を繋いでいるのか?
俺に此処を出る術は無い。
俺に外界を知る術は無い。
知恵も知識もない。何も無い。
腹の子は産まれるまで、国が全力で護ってはくれる。
創一郎が引き取った後は、厳重に監視されるだろう。
スーパーΩで無ければいい。
腹に育つ命に願わずにはいられない。
愛しい男の子供なのだ、俺の様な生活を送って欲しくなどあろうはずもない。
今しか一緒に居られぬ我が子に愛が届き染み渡るように、まだ出ていない腹を愛で撫でる。
ーー可愛い可愛い愛しい我が子ー
既に三人産んではいるが、腹の子が愛しくて仕方ないのは創一郎の子だけ。
俺は今、初めて母親になっている。
愛しくて愛しくて堪らない。
この子を創一郎が大切にしてくれるのを確信している。
創一郎の手に渡るまで、渡った後も俺はこの子を慈しむだろう。
たった一人の愛する番の子なのだ。
創一郎に似るのだろうか?俺に似るのだろうか?
目にする事は敵わぬ愛し子の成長、それでも想像せずにはいられない。
名前は何と付くのだろうか、男だろうか女だろうか。
十歳のバース診断がスーパーΩでなければ、何でもいい。
俺の腹から出たら、無事に外の世界で生きて欲しい。
俺は子守唄を歌いながら、出てない平らな腹を愛を込めながら歌い続ける。
腹の子が生まれるまで。
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