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第8話
隆の元から離れ三月が経つ。
俺は持ち得る知識と金をふんだんに使って、投資で資金を大学の研究室で技術を、と施設を潰す準備をしている。
今はパソコンで現在国で使われているセキュリティプログラムより更に優れたプログラム『ミスティック』を創り出す事に集中している。
コレは最高のセキュリティ『ミスティック』と『忍び』というウィルスとして絶対に認識されないよう、俺の創り出したコンピュータウィルスを組み合わせたものだ。
『忍び』はまだ何処にも出回っていない。
『ミスティック』と『忍び』を同居させ、そして国の厳重ファイルと世界の機密情報を手に入れる為だ。
現存するコンピュータウィルスをパソコンや大学のスパコンに侵入させ、『ミスティック』のみのセキュリティの高さをテストする。
国に採用される物でなくてはならない。
国の中枢とスーパーΩ保護施設のプログラムを破壊し尽くす『タイタン』もプログラミング中だ。
『タイタン』の開発は後一月は要する。
この四段構えを発動させる段階まで、更に三週間ほど調整が必要だ。
『忍び』無しの『ミスティック』の試作品は国のセキュリティ部門に渡している。
採用の報せが来れば、計画は実行だ。
俺以外のハッカーが居る懸念も考慮して、セキュリティもウィルスも突破出来ないように組み込むのは本当に苦労する。
俺以外のスーパーαの中には俺よりも能力の高い者も居るだろう。
だが愛する番と我が子、そして俺の為にも俺とバレずに抜くと決めている。
万が一バレたとしても、隆と生まれてくる我が子だけは守り抜く。
隆に俺の腕の中を選べる自由を与え、俺が隆を抱き締める自由を得るために。
生まれるまでに二人を俺の元へ。
セキュリティプログラム『ミスティック』の採用の連絡を受け、表面上はセキュリティプログラム『ミスティック』を、本格的に国のセキュリティプログラムとしてマザーパソコンに組み込む事二週間、『忍び』は上手く働き俺のパソコンに漏れたら国が終わるような情報を持って来る。
内容など興味はないが、気になる物が一つ。
妊娠不可能になったスーパーΩの行方だ。
彼らは産めよ殖やせよと家畜の扱いを終えた後、とある国に集め、いや売られている。
人体研究の第一国だ。
興味はないが、俺を産んだであろうスーパーΩも運ばれたか、もうすぐ運ばれるだろう。
隆はまだまだ若いが、このままでは同じ末路なのは間違いない。
俺は隆が最優先だ。
パソコンの前で両掌を組み、額を乗せて画面を暗い気持ちで睨む。
俺は今まで能力に任せ、なんて怠惰に生きて来たのだろうか。
『運命の番』との出会いは、俺自身を番の為だけに変える。
嫌な気はしない、寧ろ隆を生かすために生きたい。
スーパーαとしての生き方が覚醒していくのが、分かる。
これから何人ものスーパーαとの画面上の戦いが始まるだろう。
俺は投下待ちのクラッシャーウィルス『タイタン』ともう一つのウィルスにリボンインクじゃないワープロで打った手紙を添え、盗んだ情報のファイルを匿名で、とある人に送る。
そいつもスーパーαで番とはスーパーΩを囲う別の施設で出会ってしまったと、以前漏らしていた。
現在、子供は三歳を迎えている。
俺は創り上げた物を郵便で送った後、使い捨て用に中古のノートパソコンを持ち、国のマザーにアクセスした状態を数日保った状態にしている。
『タイタン』が暴れ出し、ノートパソコンが落ちる。
それを合図に俺は施設に侵入し、係員のβ達を手刀で眠らせ、首輪用の鍵『No.002』を失敬し、スーパーΩ達に「逃げろ」と呼び掛けた後、隆の部屋から隆を攫う。
近くで首輪を外し、その辺に捨てる。
隆に埋め込まれたGPSも『タイタン』によって、永久に機能を停止する。
俺は隆を横抱きで近くに停めた車に乗り込み、急いで発車して施設から距離を取る。
隆は自分のことを攫う人間に恐怖してか、震えてこちらを見ようとせず、腹を守ろうと縮こまっている。
「隆、迎えに来た。俺だ。」
声を掛ければビクッと勢いよく顔を上げて、美しいヘーゼルを見開く。
驚いて声も出せない隆の唇に、俺は自身の唇をそっと合わせる。
俺たちは夢中で唇を合わせた後、持ってきた隆サイズの服を渡す。
俺は、廃車置場に車を乗り捨て、隠していた車に隆と乗り込む。
きっとアイツも上手くやっているだろうと、一瞬だけ空を見上げて車を出す。
俺は実家の父親の妻に邪魔されないよう、黙って購入していたマンションに隆を連れて入る。
漸く全てが終わりテレビを点けると、とあるマザーパソコンにジャックされ局の番組ではなく、マザーパソコンから国中に情報が漏れ出していく。
俺の創り出した、最後のウィルス『メガホン』の仕事だ。
コレを動画に載せて世界中にバラされるのも、今日中だろう。
俺は国を操る幾人かのスーパーαに勝ったのだ。
俺の『ミスティック』は、どっかのハッカーに突破されただけ、どっかのハッカーにばら撒かれたウィルスの所為で、機能停止の施設からスーパーΩが首輪の鍵を持って逃げただけ。
あの、マザーが復旧する事は無い。
俺は隣で疲れて眠る番を撫で、その腹に息吹いた我が子を撫でて慈しむ。
この子が生まれたら、最初のヒートで隆と番になろう。
『運命の番』は、共に在るものだ。
これから増える隆との時間や思い出に、頰が緩む。
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