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第12話
隆の機嫌を損ねてしまった。
十歳までの知識があるかどうか怪しくなるような生活をしていたんだ。
俺は隆の機嫌が戻るまで、散歩がてらブライダル雑誌でも買いに行こう。
隆には俺の趣味で買ってくる服ばかり与えているから、自立の意味でもファッション雑誌なんかも良いかもしれない。
着てみたい服が、きっと見つかる筈だ。
猫可愛がりに甘やかされるのは、ΩだろうがスーパーΩだろうが男なのだから嫌だろう。
それから、マタニティ本も買おう。
俺用の父親の心構えの載ってるやつ。
本屋でいくつか見繕ってたら、意外と多くなってしまった。
全部、隆に関係する物だ。
俺は本のタイトルを見て苦笑する。
無気力に生きてた半年以上前までの自分が嘘のようだ。
必ず心の真ん中に隆が存在している。
重くなった本を抱えて、マンションに帰った。
「ただいま」
声を掛けるが返事はない。
リビングに向かうが、隆は居ない。
まだ寝室に居るのかと寝室を覗くと、巣が出来ていた。
夫の温もりの中で、子を育もうとしているのだろうか?
「やべぇ、隆が天使過ぎる。」
俺はスマホのカメラで撮影しまくる。
落ち着いてはいるが、俺だって人並みに大学生だ。
こんなの見たら、メロメロにはしゃいでしまう心を持ち合わせていたらしい。
隆を起こさないようにベッドに昇り、隆を後ろから抱き込む。
大きくなった腹に手を這わせ、優しく撫でる。
胎動しねえかな?
ビクン!
同時に二つの宝物が動く。
一つは目の前の天使。
一つは天使の腹の中。
「う、動いた!!赤ちゃん動いた!」
隆が嬉しそうに起き上がる。
「隆、起きてたのか?」
「う、、うん、起きてた。」
バツが悪そうに隆が返事する。
今まで不貞腐れてたのか。
「まだ怒ってるか?」
「お、怒ってない、恥ずかしかっただけだ。」
「隆が恥ずかしがる必要はない。勉強させなかった施設が良くなかったんだ。」
「そうだけど、、。創一郎、俺の事めんどくさくないか?」
「いや、全然。」
欠片とも、めんどくさいなんて思わない。
寧ろ、お前は俺に生きる意味を貰ったとは口に出さない。
ダサすぎる。
子供の名付け本を進んで買って来るくらいに、俺は隆を愛してる。
きっと本の山見て、気づいてくれるだろ?
俺は隆の腹を両腕で優しく包む。
ここに居るんだな、俺たちの子供が。
無事に生まれて来いよ。
親子三人、寝室で優しい時間を過ごす。
「婚姻おめでとうございます。」
役所の窓口で祝ってもらえた。
「これが結婚したってことか?」
隆が俺を見上げて聞く。
「ああ、結婚したって事だ。」
優しいヘーゼルを見つめて答える。
次は結婚式場でも見に行こうか?
いや、だが待て。
隆は男だ、式をしたいのだろうか?
ブライダル雑誌はコラムなんかは読んでたけど、写真や式場広告はパラ〜っと飛ばしてたぞ?
聞くか。
「隆、結婚式はしたいか?」
「いや、呼ぶ人間居ないから、式は要らない。」
この天使は見た目の割にはドライなところがある。
そんなところも男っぽくて好きだ。
「二人だけの結婚式ってのもあるぞ?」
「へぇー、特にはいいかな。俺たちの子供知らない人間に預けらんないし。」
「ふふっ、そうだな。」
そして、既に子供を愛する立派な母親の一面。
俺に対しては淫らで美しい、妻としての一面も持ち合わせている。
あー、頸噛みてぇ。
「あ、三時から産院で定期健診だった。」
「俺も着いてっていい?」
「ああ、来いよ。俺たちの子供3Dで見せてもらえる。」
あと、二月くらいで臨月に入る。
これはもう、迎え棒頑張るしかない。
いや、これはもう頑張るしかない。
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