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◆ ◆ ◆
「実は、さっきは嘘をついてしまったんだ。乙哉、君に渡したいものがあるのさ」
「えー、渡したいもの……って__なになに~?」
まだ濡れていて完全には乾きっていない体を真っ白なバスタオルで拭きながら俺は赤いソファーで寛ぎながらワインを嗜めている社長の元へと歩み寄る。
タイミングよくテレビを消した社長の横顔を見ながら、若い頃はさぞかしモテモテだったのだろうな__などと、普段は心にもないことを思い浮かべながら今まで嫌というほどやり慣れた甘い仕草で社長へとすり寄る。
「はい、誕生日おめでとう__陽翔(はるひ)くん。こんな、おじさんが……花束なんて照れくさいけど……受け取ってくれると嬉しいよ」
「……っ…………!?」
俺は急に目の前に出された薔薇の花束を見て面食らってしまって何も言えないどころか、固まってしまう。そうなった理由は2つある。
まず、社長が俺の誕生日を覚えていてくれたのとアイドルとして名乗っている《乙哉》ではなく《陽翔(はるひ)》という
本名を言ってくれたことに対して驚きと僅かながらの嬉しさを感じたからだ。
そして、もうひとつ____俺は薔薇の花の香りが大嫌いなのだ。匂いのない造花ならばいざ知れず、あの独特な香りは思わず顔を背けて逃げてしまうくらいには苦手だった。
「ごめんね、陽翔くん。本当は別の花束にしようとも思ったんだけど、どうしても薔薇の花束にしたくて……【サンフラワー・ルゥ】っていう花屋に造花にしてくれって頼んだんだ」
「……っ……これ、造花じゃないじゃん。こんなの、いらない……っ___!!」
甘い独特の香りが鼻についてしまい、贈ってくれた社長に悪いと思いながらも俺は顔を嫌悪で歪ませながら反射的に【本物の薔薇の花束】を手で払いのけてしまう。
そのせいで、バラバラになってしまった赤い花弁が床を汚し__怒りに震える社長は【サンフラワー・ルゥ】という花屋にクレームの電話をかけることとなったのだった。
◆ ◆ ◆
その後____、
社長が【サンフラワー・ルゥ】という花屋にクレームの電話をかけて怒りをぶちまけてあら暫くすると、唐突に部屋の扉がノックされる。
「失礼します……サンフラワー・ルゥの店長の__月野御影といいます。この度は、お客様に不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした」
白いワイシャツに黒のズボン――そして緑色のエプロンを身に付けて尚且つスラリとした体躯のモデルのような男が俺と社長の前に現れて淡々とした口調で謝罪するのだった。
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