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◆ 3. ◆

◆ ◆ ◆ 所かわり、ここはある花屋____。 人がまばらにしかいない花屋のカウンターで、受話器を握りながら一人の少女が困惑した表情を浮かべて、すぐ側にいる男性へと目線を向けていた。 「あのう、店長――私……薔薇の造花の注文と本物の薔薇の注文を間違えてしまったみたいで――先ほどからずっとクレームの電話が……っ……鳴り止まなくて、店長を出せって……それで____」 「造花の薔薇の注文か――。どこからの依頼だ?ああ、◯▲社の社長からか。まったく……君は___」 と、バイトの女子高生にお説教をしようとした【サンフラワー・ルゥ】の店長である月野だったが「仕事を何だと思っているんだ?」と言いかけたところで止めた。 うる、うる__と小動物のように目に涙の溜めて上目遣いで此方を見てくる女子高生アルバイトに対して嫌気がさしたからだ。この子が苦手というよりも、月野は女性が苦手なのだ。 女性特有の甘い香水の香り____。 女性特有の甲高い声____。 女性特有の距離感の無さや、とりあえず泣いておけば許してくれるだろうといった甘い考え方____。 とにかく、月野は女性と関わり合うのが苦手なのだけれど仕事なのだから仕方がない。たとえ、仕事中(ましてミスに対して怒ろうとしている最中)にも関わらず体を擦り寄せてきて尚且つ上目遣いで甘えようとしている女子高生とはいえ避ける訳もいかないのだ。 女性が苦手――かつ花屋の店長である月野にとってこの場をうまく収める手は、ただひとつ____。 「注文先は、どこだった?バイトである君に全てを背負わせる訳にはいかない。店長である俺が直々に社長に謝罪してくる。今すぐに向かうと伝えておいてくれ。それと、代わりの花束を作っておいてくれ……って、君じゃない。君は店の掃除でもしててくれ。満月、代わりの薔薇の花束を作ってくれるよな。ああ、くれぐれも本物の薔薇で作るなよ?」 適当に女子高生アルバイトをあしらうと、月野はすぐ近くにいてやり取りをニヤニヤしながら見つめていた《満月》と呼んだ男性の店員に話しかける。 そして、急いで作ってもらった造花の薔薇の花束を抱えながら店を出る。 『さて、今日ご紹介するのは__今、女子高生に人気爆発中の男性アイドルです!!では、挨拶をどうぞ!!』 『こういうの緊張しちゃって……ええっと、乙哉です。うーん、やっぱり慣れないなぁ……こういうの____』 車に乗り込もうとした月野の目に、向かいにある高層ビルの電光掲示板の映像が飛び込んできた。おそらく、再放送の番組であろうその映像は《花や植物》以外にあまり興味のない月野にとって、どうでもいいものだった。 『ええーっ、乙哉さんは薔薇が苦手なんですかぁ……。そんな人、初めて聞きましたよ。私なんて薔薇の花束とか意中の人から貰っちゃったら、もうメロメロなのにー……』 『あ、えっと……そのですね……俺って薔薇の花の香りがあまり好きじゃないんですよ……やっぱり俺って、そんなに変なんですかねー??』 どうやら、再放送の番組らしいが月野は女性特有の甲高い声に不快感を抱いたのと同時に、隣にいる男性アイドル(乙哉など存在さえ知らない)の発言に対しても眉をひそめる。 (男性アイドルだか何だか知らないが――まったくもって下らないな……薔薇の香りが嫌いだって?もしも、こいつが目の前にいるならば説教してやりたいくらいだ……それをいうなら、今時の若いヤツらがつけている香水の香りの方が不快だろう!?モテるからという下らない理由で薔薇の香りをこれでもかとつけて本物の花に失礼だとは思わないのか……っ……) はなっから、男性アイドルとやらに興味のない月野は映像には碌に目をやらず、耳だけでテレビ番組特有のわざとらしいやり取りを聞いていた。 しかし、流石にこれ以上は◯▲会社の社長という面倒くさいお客様を待たせる訳にはいかないと素早く車に乗り込み、これから起こるであろう光景を嫌でも想像し憂鬱な気分を抱きながらも注文先であるホテルへと向かっていくのだった。

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