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第6話 学校一の有名人

甘凱彼方は学校一の有名人で、もちろん知らない教師も生徒も居ないだろう。 容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能とかいう少女マンガに出てくる王子様かと疑うようなハイスペックな人間だった。 初めて噂を聞いた時、優太は全く本気にしておらず『そんな人間が居たら会ってみたい』と呆れ半分で女子の話に聞き耳を立てたものだった。 それが今は懐かしい…。 実際に会ってみると、言われなくても甘凱だと分かってしまったのだ。 「いつだっけ?あれは、え~っと…確か」 甘凱と出会った時を頭を捻って記憶を絞り出す。 優太が新しい環境に胸を高鳴らせ、平凡でどんくさい自分も新たに生まれ変われた様な気がしていた頃なので、ピカピカの一年生の春だったと思う。 移動教室で、渡り廊下を歩んでいた時だ。 まだ友だちが出来ておらず、ひとり淋しく教科書と筆箱を抱えて内心焦りつつ第三校舎へと向かっていた優太は、向こうから歩いてくる甘凱に初めて出会ったのだ。 「待てよ、甘凱‼」 突然聞こえた名前に思わず顔を向けた。 そこには圧倒的オーラを湛えた長身の王子様が居たのだ。 初めて見たのに、誰が甘凱か優太は直ぐに分かった。 呼ばれた王子様は「早くしろよ」と笑いながら、走り寄る友人に視線を向けていた。 甘凱は数人の友人に囲まれて、こちらへと向かってくる。 噂には聞いていたが、なんちゃってイケメンの多い中で甘凱は本物のイケメンだったのだ。 その圧倒的なオーラに優太は息を呑んだ。 春風にそよぐ色素の薄い栗色のフワッとした軽そうな髪。 形のよい輪郭に、綺麗な弧を描く眉。 その下には、くっきり二重の色気を湛えた紅茶色の瞳。 鼻筋はスッと通っており形も良く、薄く色づいた唇が話をしている為に白い歯を覗かせながら、そこから甘く爽やかな低音ボイスを振り撒いている。 バランスのとれた体躯は申し分なく、嫌みなほどに長い手足が動いて、あっという間に優太の前まで来てしまう。 アワアワと優太が慌てて端へ逃げると、甘凱と友人たちは横を何事もなく通り過ぎて行った。 優太の存在に、気づきもしていなかっただろう。 そんな甘凱を優太は、暫く固まったまま見送った。 「あ、あれが、噂の…」 圧倒的オーラに、ゴキュッと変な音を立てながら唾を飲み込んだ。 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン 無情にも授業開始の鐘の音が鳴り響き、優太はもちろん授業に遅刻をしたのだった。

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