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第14話 体育の時間

「う、痛い…」 「日生、大丈夫⁉」 ある春麗らかな午後…の体育の時間。 どんくさく転んでしまった優太は、膝を抱えて蹲った。 大田が駆け寄って様子を窺ってくるので、心配かけまいと苦笑いではあるが顔を上げた。 今日の体育は短距離走。 二人一組でタイムを測ることになっていたので、優太は大田と組んでいざ測定開始。 スタートダッシュに成功したのも束の間、見事に転んでしまっていた。 「おーい、日生ーッ‼大丈夫か~⁉」 少し向こうから体育教師の宮原が声をかけてくる。 いつも優太に頼み事をしてくるのが、この体育教師の宮原だ。 悪気は無いのだろうが、心配さ加減の低さを物語るのか全く動こうとしない。 転んだ程度なので当然ではあるのだが、周囲から「何にもないところでコケた」「やっぱりどんくさいな」とか嘲笑されると少し気持ちは凹んでしまう。 なので駆け寄って来て欲しいのが、今の優太の気持ちだった。 「日生、血が結構出てるよ」 大田がアワアワしているのを見ていると、なんだか大怪我の様な気がしてくるのは何故だろうか。 優太は次第に痛みを大きく感じるようになってきた。 傷口がズキズキからドックンドックンと、まるでそこに心臓があるかのようだ。 「日生、大丈夫か?保健室行くか?」 教師の代わりに高野が駆け寄って来てくれ、傷口の様子を見ると、そう声をかけてくれる。 優太は迷いつつも、結構な出血と痛みから素直に頷いた。 「ひとりで行けるから」 こんな怪我で付き添いを頼むのは申し訳なく、優太は大田と高野の申し出を辞退した。 その代わり校舎とは反対側に居る宮原へ声をかけに行き余分に歩くのも嫌なので、二人に許可をとってもらいに行って貰った。 二人から様子を聞いた宮原が、向こうでアホみたいに大きく腕で丸を作っていた。 保健室に行っても良いという事らしい。 これは誰にも内緒なのだが、優太は宮原も自分と変わらない次元でバカだと思っている。 とにかくこれは、内緒だ。 許可を貰った優太は、よっこらせっと立ち上がる。 「本当に大丈夫?」 「無理なら連れてってやるけど…」 大田と高野の心配そうな顔に「大丈夫」と頷くと、そのまま治療の為、優太は校舎へと足を向けた。

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