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第21話 平凡の名は

怒られるだろうか? そんな思いもあったが、落とされて再び痛い思いをするよりはマシだ。 それに、これで文句を言われるなら今度こそ降ろしてくれて構わない。 甘凱はそんな優太を咎める事はなく、歩みを進める。 いくら小柄な優太とはいえ重いのではないだろうかと心配してみるが、甘凱は余裕でスタスタと歩いている。 背が高くスラリとした長身の甘凱だが、こうして密着してみると思いの外鍛えられていることが服越しにも伝わってくる。 肩幅もあり、胸板も腕の太さも決して貧弱ではなくバランスよく筋肉がついているのが分かって、ここでも神様の特別扱いを感じずにはいられなかった。 「おい、立てるか?」 水道の前に着くとその場に、雑に降ろされる。 運ぶ時の丁寧さはどこへやら、である。 降り立つ瞬間はやはり痛みを感じるが、なんとか立つと早速水道の蛇口を捻った。 「…っ」 洗おうと震える手で水を掬って、傷口へ少しだけ水をかける。 「さっさと洗えよ」 「ヒギャーッ‼‼」 すると突然、傷口に水を遠慮なく大量にかけられて優太は痛みに悲鳴を上げた。 痛くて体を固めた優太に甘凱は、その後もドバドバ水責めをしてくる。 水は染みるし、傷口へ勢いよく掛けられて刺激で痛いしで声にもならない。 「うぅぅー…はぁぁぁっ」 情けない声を吐き出しながらその場にとうとう蹲ってしまった優太に、甘凱は蛇口を捻って水を止めながらこう訊いてきた。 「お前。名前、何?」 見上げた甘凱のその表情は、たいして興味無さそうに見えた。 しかし、よく見るとその目は、肉食獣が獲物を見つけた時のそれに思えて仕方がない優太だった。

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