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第29話 叫ぶ平凡

保健室へ辿り着くと、優太は漸く甘凱から解放されるという安堵の息をこっそり吐いた。 が、こっそりの筈が、しっかりと甘凱には聴こえていたらしく「チッ」という小さな舌打ちと共にギロッと睨まれた。 案の定、またまた縮こまってしまう。 「さぁ、消毒するから椅子に座ってね」 そうして同じ男の腕の中で小さくなっていた優太は、真鍋の声に再び救われて表情をパアッと明るくした。 とにかく早く下ろして欲しい。 この機嫌の悪い男に、いつまでも抱かれているのは耐えがたい。 真鍋の手前、猫を被っているのだろう。 先程とはうってかわって甘凱は優しく優太を椅子へと下ろした。 とはいえ、さっきの扱いは忘れはしない。 まだ尻がズンッと痛いのだから。 おまけに頭もまだ痛い。 そんな事に意識を取られていた優太は、次の瞬間泣き叫んだ。 「いぎゃーーーーーーーーー!!!!!!」 もの凄く染みたのだ。 両手をバタバタさせて次には震わせて、今度はグーにして痛みに耐える。 痛い痛い痛い痛い痛い!!!!! 昔から痛みに弱い優太は、高校生になっても弱かった。 それが今回は大きくなって初めて位の怪我だったのだから仕方ない。 「あらあら、ごめんね。染みるわよねぇ」 真鍋はそう言いながらも全く消毒の手を緩めない。 傷口を抉られるような感覚に、優太は涙に濡れた目を横へと向けた。 傷口なんて見てられない。 こうして痛みに耐え、消毒が終わるのを待つのみだ。 プルプル震えながら耐えること数分。 「はい、いいわよ。怪我には気をつけてね」 真鍋の優しい声に目を開けると、傷口には大きめのテープが施されていた。 「…お、終わった~ハアッ。あ、はい、気をつけます。…ありがとうございました」 治療が終わってホッとした優太は、お礼を言ってペコリと頭を下げた。 「甘凱くんも、ありがとうね」 真鍋の言葉を聞いて、そこでハッと思い出した。 甘凱が居たのだ。 優太は、ここまで連れてきてくれた一応お礼を言おうと、後ろに居る甘凱を振り返った。 「甘、っ?!!」 甘凱は笑いを我慢したバカにしている表情を浮かべてあらぬ方向を見ていたのだった。

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