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第31話 時間泥棒

普段から足の遅いどんくさい優太の速足は、速足ではなかった。 保健室前の廊下を半分も進まないうちに、甘凱が出てきたからだ。 「もうこんな時間かよ」 後からすぐさま追いつき隣に立った甘凱が、そう溢す。 なぜ、隣に立つ…。 そう内心毒づきながら甘凱の顔を見上げると、整った顔がもったいないほど凶悪な顔になっていた。 美形だから怒った顔にも迫力が有りすぎる。 実際にはそれほどではないのだろうが、自分に付き添った結果という理由が優太を責める。 そのせいか、余計に怖く見えていた。 「あ~あ~。誰かさんのお陰で貴重な時間が潰れたなぁ…」 「ぐ…っ」 優太は唇を噛み締めた。 そうだ。 誰かさんとは自分だ。 自分の怪我が原因でこうなったのだ。 だからといって優太は悪くはないのだ。 付き添いを頼んでもないのに、勝手に甘凱がしたことだから。 とはいえ。 ここは大人な心を持った自分が、素直にお礼を言うべきだろう。 相手はお子様なんだ。 そうだ、そうだ。 相手はお子様なんだから。 フッと優太は笑った。 自分では最高に格好ついた表情をしたつもりだったが、端から見るといつもと特に変わりはない。 そして、自分が思うほど優太は大人でもなんでもない。 よし、お礼を言ってやる。 意気込んで優太は口を開いた。

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