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第33話 楽しくない!
「もう、本当にやめて!冷たいし押しつけないで!!痛いっ、痛いってばーッ!!」
ギャンギャン喚いて抵抗を始めた優太を見ながら、甘凱は鼻唄でも歌いそうな様子だ。
グリグリこれでもかと押しつける。
「うううっ、オレが何したって言うんだよ~」
とうとう涙をポロッとさせながら訴えた優太に、甘凱は顔を思いきり近づけてきた。
「っ!!」
驚く優太をジッと見たかと思うと、口の端をニッと持ち上げた。
「あ…これ楽しいかも」
何が?
優太は眉間に皺を寄せて甘凱を見つめた。
この近さは、甘凱の顔面暴力だ。
「…っ」
優太はゴクッと唾液をのんだ。
整った顔が間近で自分を見つめてくる。
その表情は、今まで見てきた中で最もイキイキとしていた。
「ふざけんな、ふざけんなっ!!やめろよ、痛いってば!!」
その人をバカにした態度に珍しく腹立った優太は、頭をブンブン振った。
それから甘凱をドンッと突き飛ばすと束縛から、どうにか逃れた。
ただでさえ頭部を強打して痛いというのに、思いきり頭を左右に振ったせいで、優太は軽く目眩を起こす羽目になってしまった。
そのままヨロヨロとその場に蹲る。
…しんどい。
さっきから頭を打っての痛みに加えて、左右に振った影響で体調が一気に悪くなる。
足の怪我だけの筈が、他の場所も痛い。
精神的にも疲労が襲ってきていた。
かといって、いつまでもここへ座り込んでいる訳にはいかない。
優太は少し落ち着くと、ゆっくり顔を上げた。
「うっ!!!?」
それと同時に顎を容赦なく掴まれた。
目の前には甘凱の整った顔が。
「…調子のんなよ」
甘凱が形の良い、エロティックな唇を動かした。
背後では授業開始のチャイムが鳴り響く。
「え…何…?」
「…」
けれど、その表情は先程の物とは違っていた。
それは氷を思わせる様なもので、その冷めた色の瞳に、優太はゾクッと背筋に何かが走ったのを感じた。
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