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(memo-5) 続・新入社員がやって来た!篇

「我々の使命は一つ、副社長が現れるまで彼のモチベーションを保つことだ」 「つまり本郷さんが来たら後はどうとでもなると」 「当たり前だろ、此処の全員誰の為に働いてると思ってんだ。ダイ◯ンの掃除機だぞあの人は」 「確かに吸引力変わらんな唯一」 「げっ」 密談していた青年二人が仰け反った。 貴様、いつの間に。勝手に加わっていた存在を知り、牧は躊躇もなく胸倉を掴んだ。 「ぬるっと入って来てんじゃねえよ」 「お前…やめ、やめろ…上司の襟絞めんなや」 「今日半休じゃなかったんですか?」 「いや、だって新人来るって言うから」 見たいじゃん。 満面の笑みを寄越す萱島に、間宮はス◯ッカーズを投げ付けた。 小腹が空いたら!全力でお菓子に飛びつく責任者を放って、再び2人は会議に戻る。 「残業の件はそれとなく伝えてるけど、流石に月180時間とは言っとらんぞ」 「まあそこは…徐々に付き合って貰うくらいでええんちゃうの」 「本人が稼ぎたいかだな。定時まででも十分有り難いし」 「そういや山梨くん、社宅入るらしいよ」 もっさもっさチョコレート菓子を食べながら、床に寝転がる萱島が情報を寄越した。 行儀が悪い以前の問題だが、生憎今日は躾係がお休みだった。 「ああ…そうなんですか」 「だから誰よりも早く来て仕事しますって」 「…誰よりも?」 それは、無理だよ。 無理というか。顔を覆った間宮が動かなくなった。 「どした班長、良心の呵責か?」 「…山梨くん、社長が面接したって言ってた」 「あっ…察し」 「察し、じゃねえよ。社畜募集してんじゃねんだぞ、何のための新規採用だよ」 悲しみに暮れる一帯、萱島がス◯ッカーズを咀嚼する音だけが響く。 山梨くん、いい子だからこんな蟻地獄に堕ちて。 彼らを傍観する萱島は、ポケットに突っ込んでいた面接票を摘み出した。皺を広げて下欄を読むと、確かにクソみたいなコメントが並んでいた。 “採用理由 戸和 従順そうだから 神崎 不条理な命令でもそれが身の程だと受け入れるタイプだから” (使う側と使われる側) 「山梨くん」 青年は顔を上げて慌てた。 随分と、可愛らしい人がとろけそうに笑んでいた。 何故。つい口だけぽっかり開ける。 こんな所に、一体全体。 「右と左どっちがいい?」 「えっ」 そう言えば相手は背面に手を隠していた。 何を持っているのだろう。そわそわした心地で、山梨は視線を彷徨わせた。 「ええと…じゃあ右で」 「おっけー、はい」 ジャラッと何かが手中に落ちてきた。 鍵だ。目を瞬いている間に、机上に色んな物が並べられる。 社宅使用契約書、規約、交通費申請書、その他諸諸。 相手は空いた机の端に腰掛け、据え置きのカレンダーを引き寄せた。 「この日までにサインして出してね、朝に渡した雇用関係の書類と一緒に」 「は、はい」 しかし何方様で。答えを聞く前に、首からぶら下がった社員証が見えた。 本部主任。二度見。三度見。 「あ、失礼。紹介が遅れました主任の萱島です」 幾つだこの人。青年は悪意なく、ぶらぶら脚を揺らす人間を凝視した。 というか、性別はどっちだ。 「そうだ山梨くんピザ好き?」 更に飛んで来る突飛な質問。 宇宙人にでも相対した心地で、山梨くんは辛うじて頷く。 「俺も好き。あのねえ、明日お昼に歓迎会やるんだよ。みんなでピザ頼むから、お昼買ってこなくて良いからね」 ふにゃっと笑顔が殊更甘くなる。釣られて青年の口端まで緩む結果となった。 お砂糖いっぱい。しかも匂いまで甘いときた。先までとは違う理由で、青年は尻の座りが悪そうだった。 そんな場を職員が酷い目で見ていた。 この構ってちゃん、今日になっても幼気な若者を誑かしやがって。 明日からは彼ピッピに睨まれて怯えてろ。 「山梨くん、後ろ寝癖付いてるよ」 「え!ほんとですか?…ど、何処に…」 「こっち」 そしてお子様は他意もなく身を屈めて接近した。 ああ、山梨くんが固まってる。うわ、山梨くん頬染めてる。やめろ阿呆、セクハラだぞ。 それ以上の傍観は流石に憚られた。隣の部下は突如席を立ち、撒き餌とばかりにブ◯ックサンダーを投擲した。 「お、おいしさイナズマ級…!」 プライドも糞もない、食欲の塊が落下点へ滑り込む。 肩で息をする職員の背後。懸命な横槍も虚しく、山梨くんは嬉しそうにお花畑へ旅立っていた。 (いらんことしい)

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