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徹夜組ボーイズトーク(ファミレス編)
「では3月12日臨時定例会始めます」
「おいやめろや」
千葉がメモ用紙を奪い引き千切った。
説明しよう。
現在深夜午前2時、遂にコンビニのローテーションに負けた彼らは、せめて食事くらいマトモな物をとファミレスに会していた。
因みに現在の受注案件が経常を除き11件、本日新規案件でプラス2件、明日〆の本納品が6件。
今月既に残業が90越え、班長以上は帰宅不可、アウトブレイクで言えばパンデミックレベルの窮地であった。
「お前がそんなしゃかりきに仕事すると周りが保たねえんだよ」
「そうだ目的を思い出せ、レンチンじゃない飯を食いに来たんだ今日は」
「レンチンかもしんないだろ」
「そういう事は言わんで良い!」
B班キャップが殺気立った。
本日の会食メンバーは牧、間宮、千葉の3名。
昨日も3名。一昨日も3名。要は只のスタメンだった。
「しかし夜中にファミレスに来ると心底ほっとするよな。こんな丑三つ時まで仕事せざるを得ない現代…1人じゃねーんだこの世の中は」
「少なくとも此処に2人居るから」
「あ、そうだもし明日地球が滅ぶなら何する?」
来たぞ突飛な議題。ぶっ込んできたぞ牧。同僚が揃って眉を顰める。
「…急だな」
「俺は取り敢えず社長殺すな。そして預金を粗方奪う」
「最後の日に金なんて持ってどうすんだよ」
「矢沢◯吉の前に積み上げて、後生だから一回抱いてくれって頼む」
「さすが世紀末ロッカー千葉」
「俺はどうしよっかなー…取り敢えず社長殺してー、」
「いっぱい殺されるな社長」
カランカラーン。手前に居た大学生が、お会計を済ませて帰っていく。
既に店内は疎らになり、早々と注文した夕食が運ばれてきた。
「わーいやったー、生鮮食品だ、酵素だ」
「有難う御座いますお姉さん、僕ら実は直ぐそこの会社で働いてるんですよ」
「…はあ」
ウエイトレスがたじろぐ。形だけ会釈をするや、間宮をちらちら伺いつつ逃げるように去って行った。
我関せず連れはサラダを突き始める。
間宮は寂しげに、いつまでも彼女の消えた廊下を睨んでいた。
「間宮お前最低だな。絶対今ごろ厨房で『やだなんか変なホストにナンパされたキモイ』とかディスられとるで」
「……誰が六本木の夜王だよ」
「お前の栄光は終わったんだよ」
「…どうせ彼女も居ねえよ」
「そういや千葉くん彼女出来た?」
「ん?」
ドリンクバーで汲んできた烏龍茶を啜る。ロッカーへの問いに、間宮が沈んでいた頭を跳ね上げた。
「なに千葉、お前そういう相手いたの?」
「千葉くんは出来ても言わんから、俺が定期的に聞いてる」
「大丈夫大丈夫、出来たら言う」
「あ、居るわこれは」
「余裕こいてんじゃねえぞ糞ボーカル」
千葉は喧しい2人の脚を蹴った。悶絶する無言が生まれる。
お前らは中学生か。
当人こそこの場で一番年下だったが、誰も覚えちゃいなかった。
「まあ良いです、来週末は居ませんからね」
「え?何で?シフト入ってんだろ」
班長代表まできょとんとして、知らない事実に身を乗り出した。
「ええ実はね…僕、有給を少々…」
「はぁん有給?端から無いもん取れる訳ねえだろ」
「ほんと何言ってんだコイツ」
「いや取ったから、萱島さんにもちゃんと確認して受理されとるから」
「無い無い。海堂がポータルに申請窓口作ってないし」
「廃課金でも出ねーんだよそんなガチャ。悲しい夢見てんじゃねーぞ」
ボロクソ。確かに千葉とて、最近誰かが取得した憶えすら無いが。
手続きとしては何と言われようが通っている。しかしボロクソ。
もしかしたら正規に休んだとして、現場の席は無くなるやもしれない。嘆息して脚を組み、千葉はソファーに怠い身体を投げた。
「…もう良いわ別に。大した用事も無かったし」
「え」
途端に2人の勢いが静まる。
そして明後日を向いた千葉を見るや、何故かおろおろと狼狽え始めた。
「…あっ、いや…何時だっけ来週末!?おお19か!」
牧が慌てて上着から携帯を引っ張りだした。間宮も手帳を捲り始め、何やら懸命に予定を確認している。
「19な、オッケーオッケー…全然問題ないぞ千葉」
「大体お前休み少な過ぎなんだよ、営業だからしゃあねえけど」
「納品あるけど気にすんな。俺早出するから。全然気にすんな」
何だコイツら。相手が引くや、突然宥めにかかる馬鹿にぽかんとする。
暫く必死な両者を眺めた後、千葉は軽く吹き出してテーブルの呼出ボタンを引き寄せた。
「俺、今日会計出すから」
「ん?」
「なんかもっと良いもん頼めよ」
対岸で顔を見合わせる。ほんとう、この会社はお人好しで成り立っている。
今日も明日も明後日も。頭上の絶対悪がいる限り、現場は結束で生き長らえるから。
(日々の業務お疲れ様です)
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