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※electric kettle
※和泉くんと付き合ってない世界線かつ、社長と同居してた頃の話。中身無いけど長い。
※やってます。社長と(犯罪じゃないよ)。
最近構ってやらなかったからか、遂に今日は自室にまで上がり込んできた。
神崎にとって欠片も生態が掴み難い。
不可思議な未確認生物が、シャツ一枚でひょっこりとドアの隙間から覗き込む。
「…しゃちょう」
平仮名。
さっきまで寝ていたのに態々起きたのか。
髪の毛をふわふわさせて、寒そうな格好で寄ってきた。
「何だよ」
「もう寝る?」
ベッドに転がってメールを返す雇用主をじっと見る。
夜中に枕を持ってくる子供みたいだ。否、きっとそのものか。
「またそんな薄着で歩いてきたのか」
「ううん、違う」
つい癖で起きたものの。眠いのだろう。
ベッドの縁に膝を突いて、うつらうつら目を擦る。
どうして此処まで自分に懐くのだろうな。
神崎も、寧ろ本人すら理由は知れないが、いつも姿を見る度に縋ってくる。
へんないきもの。
案の定肩から冷えきっていて、致し方なくベッドの中へ招き入れた。
「…しゃちょう最近いなかったね」
入るなりべたべたとくっつき、勝手にシャツに顔を埋めた相手が不平を零した。
神崎は誤解されるが割に忙しい。何もせずとも会社が繁盛するなら良いが、そんなつまらないギミックは確立していないし、必要もない。
「お前は俺が居ないと何も出来ないのか」
「うん」
跳ねた髪が柔らかそうで、自然に手が撫でていた。
心底気持ちよさそうに頬を紅潮させる。
簡単で、分かりやすくて、ボタンを押したら予定調和の行動をするペットのよう。
面倒臭くはなるが、何ら気を遣わないのは確かだった。
(反応も愉快だし)
親友曰く、神崎には喜怒哀楽の楽だけ存在する。
特に他人を虐げるのがとてつもなく楽しく、嫌がられようものなら増々度を超える。
萱島は非常に素直だ。
その内面から、逐一のレスポンスから。
神崎でなくても、愉快でちょっと手酷く扱ってやりたくなる。
可哀想なことに、意図しないDV量産機なのだ。
「い、いたぁ…」
ほら。少々抓っただけでこの顔。
安心しきって抱き着いていた子供は、いきなり痛みを覚えて涙すら滲ませた。
「何でつねるの」
「面白いなあと思って」
「な…なにそれ」
訳の分からない萱島が絶句する。
肌が柔らかいから、抓った頬は僅か赤くなっていた。
マシュマロ。
甘い匂いに加え、感触。存在自体が砂糖菓子みたいで、増々神崎の知る“人間”から離れていくのだった。
「…何でいつもいじわるするの」
泣き出しそうな声が漏れて、また首に縋り付いてくる。
どうして其処まで必死なのか。ほんの指先だけの挙動に振り回されて、悲しんだり安心しきったり。
小さな身体。
ひっついた身があまりに簡単に捕らえられて、常に驚く。
回った腕も、擦り寄る胸も、脚も。
至る所が幼く、薄い服一枚隔てた肌は沈むほど柔らかい。
「優しくして欲しいって?」
「そうだけど…」
「してやろうか?」
えっ、ほんとうに。
想定外に固まった萱島の顔が、みるみる期待や照れを含んで赤らむ。
頭でも撫でてくれるのだろうか。
じっと上目に見る生き物を、神崎は観察した。
最初は些少な興味だった。今度はどんな反応を寄越すのか、それから外がこうなら、口内は如何ほど甘いのか。
「、ぁ」
だからさして意味は無かった。
様に思う。すっと背中から掬って、唇を寄せて食んだのも。
案の定甘ったるい味を、舌の先で確かめて舐め取ったのも。
「…ん、ぅ」
単純な甘さかと思えば、初めて口に含む味だった。
唇の感触も、女のそれより溶けるように柔らかい。
予定より長く吸って、それでも表面だけで離してやった。
少し熱を帯びた身体が戦慄く。
震えて、びっくりして神崎を睨め付けていた。
優しくどころか暴力でも振るわれた如く、細い眉根を寄せて。
「っ…な、なんで」
「お前が優しくしろって言ったんだろ」
また嫌がらせの延長だと思っていた。
萱島は一転距離をとって、腕の中から逃げ出そうとする。
「うそつき」
悲鳴に確信する。この子供が抱いているのは、親に向けるような薄淡い感情であって。
汚さやセックスを一切除いた、上澄みからの発芽だ。
(少女漫画から出てきたのかコイツは)
呆れて顎を掴んだ。
“性”を感じないから神崎に懐いていたのであれば、とんだ迷惑である。
「本当に餓鬼だなお前」
次はむっとする。腕を掴まれたまま、つうと片目から水を滴らせて反抗した。
「…子供じゃない」
「何処が」
「あ、」
跳ね除けるや否や、シャツの留め具を外して広げた。
懸命な反論を、確認するかの如くじっと裸を眺める。
真っ赤になって止まった儘だ。
薄い灰色の瞳が首元を、胸を、腹を執拗に辿る。
ひくりと喉が引き攣った。
貧相なくせに、感触の良さそうな胸。そこへ控え目に色づいた突起へ、長い指がゆっくり降りてくる。
「ふ、ぁ…や」
「まあ…身体はそうでもないか」
「いや、やだ」
撫でていたら、やがて固く指へ引っ掛かるまでになった。
付随して息が上がる。
幼い精神と性を擽るカラダ。倒錯的な存在に、確かに妙な気分にさせられる。
カタカタと震えて、それでも自分ではどうにも抗えず、結局神崎へ縋るように助けを請うている。
「あ、っぁ」
シャツの隙間へ手を差し入れ、背中の肌を擦った。
前から後ろから追い詰められ、どんどん艶めいた嬌声が漏れ始める。
正直こんな声を出すとは思っていなかった。
普段からは想像もし難い。
熱に浮かされて辛そうに、男の欲を体現した様がシーツへ転がっている。
「やだよ、しゃちょう」
尖った胸を曝け出して、神崎が触るところから熱を上げて。
尚も逃げようとする腕を押さえたら、本当に嫌がってしゃくりあげ始めた。
「こ、っこわい」
「何も痛いことしてないだろ」
「手、そんなおさえないで」
力を込めたつもりはなかった。
けれど小動物を触る加減を分かっちゃいなかった。
手を離せば逃げ出すかと思えば、泣きながらシャツを引っ張ってくる。
「沙南ちゃん」
“こわい”原因へひっつく子供に、さしもの神崎も呆れた。
「嫌だって言いながら抱き着かないでくれる」
ぐずる声まで上擦って、更に胸でくぐもる。
肉体からまるで心が置いてけぼりで、可哀想なほどアンバランスな存在だった。
少しそのままにしていたら落ち着き始めたのか、ひゅっと喉を狭め黙る。
首を竦めて伺う萱島をいつもの、気のない目でじっと見て。それから不意に肩を掴んで口付けた。
またびくりと強張る。
急に恋人にするように柔く、撫でて溶かして、神崎は手つきだけは辟易するくらいの優しさであやした。
簡単に靡いて恐れを引っ込めた子供が、一変とろんと瞼を落とす。
「ふっ…しゃ、ちょぅ」
「全部一から教えてやらないといけないのか、お前は」
「…?」
あまりに純真な目で瞬くから、直視しかねて唇を噛む。僅か開いた隙間から舌を割り入れ、とうとう口内まで味わって。
(甘…)
不快ではないが、舌を焼くファンタジーな味に言葉が失せた。
どうなっているやら。
不可解な存在の仕組みを知りたく、逃げる舌を追ったり。歯列を余すところ無く舐めたり。
ついどっぷり深く絡めたら、何時の間にかずるずる力の抜けた身体がシーツに沈み込んでいた。
口を放してもぐったりして。懸命に全身で息をして、指先まで快楽に侵された身が、びくびくと慄いていた。
「…っう、あ…」
咄嗟に手が出て、胸から触っていた。
シャツの中を辿り、細い腹をつたい、柔らかい尻へ形を確かめ。
「、んんっ、ぅ」
指先が濡れた割れ目へ辿りつき、ぼろぼろ本能から涙が溢れる。
何をされるかは分かっているらしい。
神崎が真正面から覗き込んでやれば、許しを請うように怯えた瞳が濡れる。
「…またその顔で俺を見たら、余計に酷くするぞ」
ぐ、と1番柔らかいところへ指が押し込まれた。
頼りない喉から、細く甲高い悲鳴が零れた。
「それで親離れするなら、別に良いけどな」
「あ、しゃちょ…っぬ、ぬいて、」
「手の掛かる子だよお前は」
子供じゃない。親でもない。
覆いかぶさる体格差に異議を吸い取られ、萱島は自分の立ち位置を見失っていた。
なら何なのだろう。この大人は、神崎は。
居ないと駄目だから、他とは一線を画する。でも家族じゃない、増して最も近い存在がいい。
「沙南、肯定か否定かで答えな」
「…っは、ぅ、」
指は埋まったまま。けれど動きを止め、どうにか隙間でぜいぜいと息を紡いでいた。
「俺とセックスしたいか」
既に自問自答を繰り返していた、萱島の思考はそこでぷっつりと途切れた。
「、え…」
改めて言葉に出され、ベッドに四肢を投げ出した状態でまっしろになる。
裸の胸を上下させ、下肢に指を差し込まれ、迫られていながら。
セックス、という露骨な言葉に初めて行為を理解した。
萱島の顔色が、みるまに赤く紅潮していた。
「したくないなら、用事があるから出てくぞ」
「ぁ、え…や」
「したくないって?分かった。じゃあもうおやすみ」
突然視界を遮る相手が遠のいた。体温が剥がれ、夜風が窓の隙間から肌を冷やす。
展開に追いつけず呆然とする。
一寸冗談かと思えば、彼は本当に携帯に手を伸ばし、ベッドから立ち上がろうとするから。
「…だ、だめっ」
必死だった。
寂しさが洪水の様に押し寄せ、耐え切れずにそのシャツを握り締めていた。
過剰な力に指先の色が失せる。
それを細めた目で眺め、神崎は見たこと無いほど懸命で、苦しそうな子供へ向き直った。
「いかないで、いやだ」
「どっちだよ」
「っ分かんない…分かんないけど、しゃちょう」
半ばパニックに陥って、小さな体躯が密着した。
追い詰めた自覚がある手前、肩口へ抱き寄せてやる。
「じゃあ文句言わないで大人しくしてるか」
泣き腫らした目が見詰め、一杯に頷く。
てっきり手を出せば逃げると思っていた。それでも尚も神崎へしがみつく。
自ら退路を塞ぐ愚かないきもの。神崎は再びその攻略に挑み、手を這わせていた。
膝へ乗せれば良く表情が伺える。
柔らかい箇所を突付く度羞恥に眉を寄せ、同時に行き場の無い快感に翻弄され。
耐えていた口元から零し、助けてとばかりにこっちを呼ぶ。
「ぁ…あ、っあ」
「…お前はまったく、難儀な体だな」
力が無く、自立出来ないのを結局シーツへ押し倒した。
指で探るやクチュクチュ卑猥な音を鳴らす。
触れば触るほど感じる、男からすれば垂涎ものの素直さ。
段々恥じらう余裕も取られ、ただ熱をどうしてよいやら分からず、神崎へ抱き着いていた。
「ん、っひん」
「泣き虫」
とっくに、何を言われても反応できない。
別に中心でなくとも、何処を触られようが手つきに悦ぶ仕様になってしまった。
体が主人を、神崎を覚えはじめている。
沼の底へ沈んだと思ったのに。脚を持ち上げられ、ぐっと彼が上体を近づける。
次ぐ瞬間、いきなり比較にならない圧迫感が押し寄せた。
中枢から支配し、自我まで熱が侵食する。
経験のない熱を打たれ、萱島は解けそうな声を引き攣らせた。
「っあ…ああ、ぁ…!」
また置いてけぼりだ。
熟れた秘部だけが嬉しそうに飲み込み、神崎の熱を受け入れている。
柔らかく緩んで、ずっと求めていたように咥えて。
そして最奥を突かれるや、真っ逆さまに落ちる感覚と共に何かが弾け飛んでいた。
「あ、っ、やぁ…ぁ」
がくがく全身が痙攣する。下腹部から末梢神経まで疼きが広がり、強制的にシーツへ身体を崩れさせた。
「なあ沙南、普通挿れただけでいくと思うか」
ずっとその痴態を観察する相手が居た。
指先を頬へ滑らせ、そんな接触すら喘ぐ身へ肌を寄せて。
「いかないんだよ普通、どうなってるんだお前」
「、ぁ、い、…いや」
「ちょっと見せてみな」
言って達したばかりの萱島へ、容赦なく次の振動を掛ける。
「あ、ぁあ!めっ、だめ」
「何がだよ」
「っ…さっき、い、いったとこ、」
もう気持ち良すぎる為か、殆ど泣きじゃくっていた。
ただそれが余計にサディズムを触発し、手折れそうな腰が更に引き寄せられる。
「ふっぅ、あぁ…!」
「そうやって喘いでるのは可愛いな」
律動に反して、ほんの優しく前髪を梳る。
意識は朧気だった筈なのに。見たこと無い神崎の微笑みを目の当たりに、芯から奪われ溺れきってしまった。
肌を重ねて身体を繋げる。
行為にやっと心が追いつき、ぎゅっと神崎を求めていた。
「…っしゃちょ、あ、また」
「いくか?どうぞ」
「ん、っんね、あのね」
腰を揺すられるだけで一杯なくせ、息継ぎの合間どうにか舌っ足らずな言葉を繋ぐ。
「い、いじわるしても…いいよ、」
何を言うかと思えば。
よもや神崎が虚を突かれ、熱に浮かされた子供を見詰めた。
「…でも、他の…ひとにしないで」
止め処なくぼろぼろ涙を零しながら、一方ならぬ純粋な威力が刺す。
水塗れの飴玉へ口付け、気付けば甚く自然に折れていた。
「分かった」
背なから掬い上げて閉じ込める。
肩や首筋の汗を吸い、序に所有の跡を付けてやった。
「いい子だな、お前」
小さく最後の嗚咽が漏れた。持ち主と化した男を見据える。
何もかも従順に捧げた萱島は、再開した律動へ一層素直な声をあげた。
しゅんしゅん。
お湯の沸く音が漂って、萱島はぼんやりと両目を開いていた。
睫毛の間から光が落ちる。
この明るさからして、もうとっくに朝を迎えている。
うとうとしながらもベッドから這い出そうとして、ずんと重い下半身に引き止められた。
(…?)
下肢だけじゃない。何となく、全身がだるい。
それでも無茶に立ち上がろうとして、結果ぼとんと床に落っこちた。
びっくりしてフローリングに座り込む。
すると微かな音を聞きつけたのか、湯を沸かしていた部屋の主が様子見に現れた。
「何やってんだ沙南」
社長。
いつも通り隙のない格好で、もうネクタイまで締めて。
ぼうっと見ていたら彼は屈んで、腕の下から軽い身体を持ち上げた。
「…あ」
大きな長骨の浮いた手。
それがシャツ越しに肌へ触れ、次々と昨夜の記憶が堰を切り流れ込む。
「…ん?」
真っ赤に置き石の如く固まる。
物言わぬ大人しい生き物へ、神崎が不思議そうに首を傾けた。
「何、どうした。痛いのか?」
「い、いいえ…」
消え入りそうな声で否定する、湯気の出そうな姿にやっと合点がいったらしい。
神崎はああと気の抜ける返事を投げ、温度差甚だしい平常運転で述べた。
「まあ今まで通りとは行かないけど、そんな顔することないだろ」
「あ、はい」
「ほんと人生何があるか読めなくてな…俺も流石に昨日びっくりしたわ」
「え?」
「まさかお前相手に勃つとは」
「……はい?」
萱島の肩からシャツが滑り落ちた。
情緒とか恥じらいとか。
そんな可愛いものを抱く人間では無いと分かってはいたが。分かりきっていたが。
「ごめんな社長、今まで沙南ちゃんのこと違う星の生命体ぐらいに思ってたから」
「……」
「あ、あとお前ほんとに成人してるよな」
「……」
「なんかこう昨日から…妙な罪の意識が止まなくて。性犯罪やらかした心境で落ち着かないわ、やっぱりお前の年齢が疑わしいわ」
「社長」
はっきりと区切られた発音。
聞いた例のない声に、神崎が漸く黙り込む。
「二度とさわんないで」
「何怒ってんだよ」
「本郷さんにデリカシーの意味聞いてきて」
「お前が言う台詞かよ」
遠くで殊更喧しくケトルが鳴いていた。
うるさいなあ、とそれすらも不機嫌を増長させて唇を噛む。
昨夜のあれは何だったのだろう。フィルターで捻じ曲げてしまった幻だったのか。
「昨日はあんなに可愛かったのに」
不意に呟かれた。
神崎の小狡い言葉に、見る見る指先まで赤く戻っていた。
腹立たしさも消し飛び、鳴りを潜め。気恥ずかしさしかなく俯く相手へ、幾つか恣意を含んだ手が伸びる。
キッチンで2杯分の熱湯を沸かし終えた。
ケトルがカチンと音を立て、冷める前にと彼らを催促していた。
2017/7/30
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