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parody memo
▼もしもRICが私立高校だったら
「ちょっと男子ィ~やめなよぉ」
平均値。学術調査から見ても、男子より女子の方が精神的成熟が早いとされる。
今日も稚拙な嫌がらせを仕掛ける彼らに、見兼ねた女生徒が非難の声を上げる。
「大丈夫大丈夫、反射神経は良いから」
「黒板消しってさぁ、今更やる奴いないよぉ。ダサすぎぃ」
「あっ、来た」
不服を垂れる彼女らは最もだったが。
エンジョイに命を懸ける男子高校生は、さっと仕掛けた罠から離れ笑いを押し込めた。
今日は水曜日。次の4限目は数Ⅱの枠だ。
次第にペタペタ阿呆っぽい足音が近づき、ガラリと勢い良く引戸が開く。
つい固唾を呑む全員の注目が寄る。
“反射神経は良いから”
言葉通り、教員は落下する黒板消しを見事に掴んだ。
おおーっと形だけの歓声が起こった。
そのギャラリーをドヤ顔で見渡すや、颯爽と教壇へ向かおうとする。
萱島の脚が入り口へ引っ掛かり、顔面から床へとダイブしていた。
「……」
「…うわ」
教室へ言い難い沈黙が落ちた。
「二重トラップとか流石に酷すぎ…謝りなよ」
「いや下には何もしてない。俺もびっくりしてる」
「大丈夫?沙南ちゃん、唯一の取り柄から突っ込んだけど無くなってない?」
ざわざわ。優しいのか酷いのか分からない密談の中、悶絶していた萱島が、やがてむくりと自ら転がっていた上体を起こした。
「あ、起きた」
「泣くか?泣くんじゃないかアレ」
「もう何でいっつもそういう事するわけぇ、最悪…」
ばんっ。
イマイチ迫力のない音を立て、萱島が紙束を教壇へ叩きつける。
「…テスト…返します…!」
ずっと鼻を啜る。
案の定涙目の教師に、さしもの男子らも罪悪感から黙り込んだ。
日頃のフラストレーションからついやってしまうのだが…何だか近所の小学生を陥れた気分になって。
「名前呼んだら…取りに来て下さい、相川くん」
「え、はい」
今日はやけに立ち直りが早い。中間の成績が上がったのか、校長にお菓子でも貰ったのか。
「相川くんは、この前とおんなじ間違いしてました」
プライバシーの観点から点数こそ言わないものの。
未だ目元は赤い癖に、反撃なのかあからさまな声量で萱島が皮肉った。
「先生、授業中に何回もいいました」
「はあ…まあ」
「相川くんは話きかないし、馬鹿にしてる先生より頭がわるいんですね」
「……は」
「やーい、ばーーーか」
相川の眉間に深々と皺が出来た。
凡そ教師とは思い難い。園児並のボキャブラリーで、萱島が喜々と重箱の隅をつついている。
ぷちっと細い高校生の琴線が切れた。
「い、いたい」
あろう事か自分より低いほっぺたを抓り、ぐりぐりと直に痛めつけ始めた。
「ごめんなさい、痛い…ばかって言ってごめんなさい」
「先生が生徒に暴言は良くないと思います」
いや生徒が先生に暴力も。
反論しかけたのに、間近の目に喉が引き攣る。
立場が最底辺。
結局重ねて謝る羽目になった萱島は、すごすごと教壇へ逃げていった。
「…次、井口くん」
「せんせー、取りに行くの面倒なんで配って下さい」
「やだよ…!お前らの方が若いんだから運動しろよ!」
「先生、スーツ腹立たしいんでジャージにして下さい」
「なんで」
学級委員の牧に助けを求めたが、相変わらずエロゲをしている。
でも今日はちゃんとイヤホンをしてるから怒るに怒れない。
あれ、そもそも授業中にエロゲをしている時点で不味いのだろうか。
いやでも携帯は触ってても正直もう注意してないし、そうすると一体何処から規制するかって話になるし。
「そうだ、PTAは怖いし」
「何の独り言ですか」
「今回の学年平均は78点です、みんなとてもよく頑張りました」
「…へえー、あ」
突如イヤホンを外した牧がこっちを向いた。
「そういや75超えたら夏季補修無くすんですよね」
「…ん?」
萱島が不可思議な笑顔のまま固まる。
お前はいっつも授業聞かん癖に。ほんっと余計なところだけ突っ込んでくるな毎回。
「そんなこと言いましたっけ」
「言いましたよ先生、それで何人か居残りして勉強会してたんだから」
「…うーん、でもそれは…せんせい1人の権限ではどうにも出来ないというか…」
「どうにも出来ない事を約束したんですか?」
「えーショック…私デスティニーランドの前売り買っちゃったのに…」
「先生、それは無いでしょ。17歳の夏にどれだけ価値があると思ってんですか」
再び教室がざわめき始めた。
妙な汗を浮かべ、壇上の萱島が一歩後ずさる。
わー、不味い。アメリカの色ついたお菓子くらい不味い。
そして何も言わず、教師は出入り口から脱兎の如く逃げ出した。
「逃げたぞ!捕まえろ!」
「おい牧、お前も行くぞ。言い出したんだから仕事してくれ」
「ちょっと待って…今いいとこだから」
隣の教室から、何事かと担任が首を出す。
昼前の学校、職務怠慢の教師を追い掛け、数学は総合学習へと科目変更していた。
「牧、ほら早く!GPSで探知しろ課金厨!」
「いやだから、今いいとこだから!」
(EWの連載終了後、すごく下らない学園パロディを始めようかと思案中です。予定は未定です)
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