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C's dispersion

※微微微エロ 下唇を食んで、そっと舌を滑らせて。 優しく果実を剥くように、注意を割いて解してやる。 初めは躍起になって応えていた癖に、いつも直ぐ苦しそうにして大人しくして。 腕の中で必死に攻撃を耐えるみたく、震えて泣きかけた。 「…いつまで経っても下手くそだなお前」 呆れと可愛さ半々で詰った。 呼吸するだけの生き物は、何処か悲しそうに濡れた目で見上げる。 「ご、ごめん」 「やり方教えてやっただろ」 「うん…もう、ちょっとゆっくり」 気が遠くなるほど優しくしてやったのに。 残念ながら、これ以上譲歩してやれる気は持ち合わせていない。 「っぁ、あ」 前触れ無く着衣の下へ手を差し入れた。 小さな体が一瞬で真っ赤になる。 敢えて脱がさないまま、隙間に指先を這わせて、執拗に何度も何度も。 行き来をすればそれだけで息を上げて、消え入りそうな喘ぎを漏らす。 「い…いずみ」 とろける様に柔らかい肌が愛おしい。 永遠に触れて、全てに自分の手つきを覚えさせてしまいたい。 身体を余すところ無く調べて、それで毎度十分に気が済んでしまった。 既に何ヶ月と跨いでも、萱島とのセックスは変わらず“正常位”だった。 先般、やっとキスの仕方を指導しただけで。 「ふっ…」 唇の隙間から指を割り入れる。 好き勝手に中を触診していたら、もう術もなく凭れ掛かってくる。 (小さな口) 正直未だ、考え得る十分の一も致していない。 このやたら甘い口内を使う事すらさせていない。 きっと滅茶苦茶に拙いのだろうな。 順当に導いてやりたいのも本音、早々と自分の言う通り動かしたいのも本音。 「最近いい子だな、沙南」 不意に腕の下から持ち上げられたかと思えば。 膝の上で優しく褒めるものだから、すっかり萱島はしおらしく頬を染めた。 「もっと俺の言うこと聞けるな」 すりこみが済んで、反射みたいに頷く。 柔らかい掌を掴み、ぐっとシャツに隠れた相手の下肢へ押し当てた。 困惑に塗れた目が濡れる。 首を竦めて、予測出来ない展開へ脚を震わせていた。 「中に指入れて触りな、俺が何時もやってるの真似して」 「え、え」 「何でも自分で出来るようにならないと」 最もらしい理由をつけて、真正面から見詰めてやれば終いだった。 萱島は無条件に、青年をいつでも正しい理として尻尾を垂れる。 それでも羞恥との鬩ぎ合いから吐息の様な、喘ぎの様な、意味を成さない音がポロポロ溢れる。 「何て?」 「…ど、ど…したら」 自転車の補助輪を外された子どもみたいだ。 無理やりすれば怒れるのに。慈しんで言いくるめられたのでは、文句すら言えずに勝手に追い込まれている。 かたかた震える指を握り、温かくして。 努めて柔らかく、既に蕩ける箇所へ埋め込んだ。 「っう、あ」 弾かれた身体が痙攣する。 足の先まで赤く火照らせて、いつも通り、蛇口を捻ったみたいに容易く涙が落ちてきた。 膝に乗せたのを撫でてやって、戦慄く肩へ舌をうずめる。 噛むと途方も無く甘かった。 慰めて皮膚を唇で辿り、無理強いした手先すら労った。 緩く気持ちいいだけの感触に、萱島の眉が苦痛でなく歪む。 「上手に出来てるから、指動かしな」 髪を掻き混ぜ、頭を包み込んで口付けた。 丸い頬はすっかり優しさに朱くなる。 額を繋げ、促すようにじっと見れば睫毛まで濡れそぼっていた。 「…んっ」 ちゅっと指先が控え目ながら水音を立てた。 視姦されながら、萱島は下肢に入れたそれを拙く深める。 本当に従順になってしまった。 以前ならばこんな事、どんな餌を投げようが頑なに逃げたのに。 今は戸和の身体へ跨がり、真正面で自ら脚の間を触る。 「入り口から広げて、そうその儘」 何度も頭を撫でた。 卑猥な睦言を吐くよりも、余程嬉しがると知っていたから。 「い…ず、ちゃんとし、したの」 「ん?」 上擦って短文ですらつっかえる。 条件付けと同じだ。利口にすれば柔らかく聞いてやる。 「また、ほめて」 必死にねだって、涙を湛えた瞳が縋っていた。 何の邪心も挟まない白に、戸和は目眩にも似た焦燥を抱いた。 余りにも危う過ぎた。 金でも、増して特異な代物でもなく。 万人が与え得る、単によく出来たと撫でるだけ。そんな報酬に萱島はぜんぶを差し出してしまう。 外へ出したくない。他人に見せたくない。 其処までの警戒を、持ち出して然る可きだ。 「…誰より可愛くていい子だよ、何時だって」 間近の表情が安堵に解けきる。 ふわりと舌を焼くわたあめの笑みを、戸和はそっと両手で包み込んだ。 ダイヤモンドはプリズム効果を生む。 単なる外光の跳ね返しでなく。素直に内側へ取り込んだ光を、想像だにしない色味にして送り返す。 萱島の純度100%の瞳。 覗き込めば、良くも悪くも素性の分からぬ自分が現れ、じっと鏡の反対側を睨んでいるのだった。

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