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第8話 犬の名前は……。

「その子の名前あるんですか?」 「まだないよ」  つけてるんだ! 驚きが増した。  考えてる考えてる。それで良い名前を思いついたのか、指を鳴らして言った。思わず僕は吹き出す羽目になるとは思ってもみなかったけど。 「すっげぇお気に入りだから『氷雨』って名前にするわ。決まり。こいつは氷雨。かわいがってやるからなぁ」 「僕ペットじゃないんだから……」 「あ、今度さ、ポメラニアンが来るんだ。家に。そいつの名前氷雨にしてやる。どーだ? 名案だろう?」  軽いめまいがする。本当にペットにされてしまう僕。  嫌じゃないけど、こそばゆい。僕はワンコもにゃんこも好きだ。あ、じゃぁ僕もペット飼おう。 「僕もペット飼います。ワンちゃんを。そしたらリズさんって名前にしますよ?」 「え? 俺か? いいぜ! ドーベルマンにしろよな」 「嫌です。ミニチュアダックス飼います!」  足が短くて、キュートなタレ耳にくりくりとした目。何より、一生懸命飼い主についてこようとするちっさいワンコなところがたまらない。決まり! 「ドーベルマンがいい。ダックス可愛いけどダックスは氷雨風だ。」 「なんですと!? だったらダックスにアレイって名前つけてもいいんですか?」  少し黙り、考える人のポーズをするリズさん。手は離さないけど。ポカポカが伝わってきてこれもいいかななんて思い始めてる僕。  絶対零度の僕はどこに言ったものだろうと思っていた。  ファンにも少しは優しくしようと思い始めたところだった。 「アレイはだめ。わかったリズでいいぞ。アレイに氷雨まで奪われたらムカつくからなぁ」  奪われるって、まだ僕はあなたのモノじゃないです。  といいたいけど、アレイさんにお手柄だったり、殿堂入りの伝説だったりを取られて腹が立ってるのかなぁなんて思った。そうだよねぇ。僕に双子の弟なり、兄がいて一緒にヴァイオリンをしていて、負けたら洒落にならないし。負けとかはないけど、大勢のみんなが僕じゃない男の子を褒めてたらむっとするもんな。そういうことだろう。 「リズさんってつけますよ。安心してください。超可愛いオス飼うんで!」  夢が膨らむ。 「氷雨は女の子だな。アレイも同意するだろうし、決定」  何ぃ。僕は男なのに……。やっぱり女臭いのかなぁ僕って。  ため息が出てしまうけど、僕の名前をつけられたポメに嫉妬しないようにしないと。  僕の伝説の男をとられたらたまったものじゃない。 「そのぅ。氷雨のポメばっかり可愛がらないでくださいよ? 僕と一緒に、ゲームして遊んでくれないといやですからね?」  嫉妬かよと自己嫌悪に陥ってしまうけど、 「わかんねぇーぞ? 明日の朝起きたら首輪つけられてるかもしれないぜs.俺とアレイに」 「ええ!? そっち?」  にやりと笑う彼は素敵でした。  寒さなんて吹き飛んで、二人の世界に浸ってたけど、そろそろ家が近いらしい。  ドキドキ。  まるで、初めて彼氏ができて浮かれ上がって初夜を楽しみにしている女の子みたいな気分……なわけあるか!  と自分で思ってツッコミも忘れなかった。

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