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第3話

「おっ、俺、あなたの大ファンなんです!」 目の前の現実に驚かずにはいられなかった。 つい頓狂な声が出てしまい焦る。 目の前に、 確かに目の前に つい昨日まで遠くの存在だったその人が立っている。 顔がただ似ているだけかとも思ったが声で確信した。 「僕は、あなたの声が好きなんです…っ!」 ついつい力みすぎてしまった。 沢山の人がごった返している東京の交差点でなんで大声なんて出しているのか。 急に我に返るとあまりの恥ずかしさに全身の体温が見る見るうちに上がっていくのを感じた。 「取りあえず、ちょっといいですか?」 興奮しすぎて顔からだらだらと汗を流す俺をその人は、半ば強引に引っ張るようして小さな店に連れ込んだ。 入ったことのない少し高そうな店で、俺とは一生縁の無い店だなぁなんて落ち着いた店内を見回してぼーっと考えていたら 店員に奥の小部屋に案内された。 「何飲みます?」 「へ?は?」 「じゃあ、これ2つで」 驚きのあまり言葉も出ない俺を前に慣れた様子で注文をすませると 未だ目の前にいることが信じられないその人は真剣な表情でこちらを見ている。 「この度は、あなたの大切な音楽プレーヤーを壊してしまい大変申し訳ありませんでした…ごめんなさい」 あぁ、この声だ。 この声。 俺は今までこの声に何度救われてきただろうか。

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