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第5話
しばらく勉強も忙しくて
姉のCDをかっさらってきた事なんてすっかり忘れてしまっていた。
やっとそのことを思い出したのは大学合格が決まって間もなくの事だった。
県外の大学に合格した俺は一人暮らしをする事になっていた。
東京。
ずっと行きたかった。
周りの奴らと同じく都会に魅力を感じていた俺にとって
東京での一人暮らしは夢のようなものだった。
姉のCDのことを思い出して
新居に持っていく荷物の中に何となく入れておいた。
東京での暮らしは思っていたよりも厳しいもので、
田舎でのんびり暮らしていた俺にとっては時間の流れも人の流れも全然違う。
バタバタと一日に追い越され
気がついたら大学を卒業して
就職して、
上京するまでは、持っていたであろう目標さえいつの間にか忘れ去って一日一日を当たり障りなく過ごすようになっていた。
寂しい。
まったく、これでいいのだろうか。俺の人生ってこんなのでいいのだろうか。
田舎に帰ってしまおうか、とも考えた。数年越しのホームシック発動である。
そんなときに、姉のCDを初めて聴いた。
暇だったから、ああ、これ懐かしい、みたいな感じでパソコンに入れて再生してみたのだ。
「……」
一つ目のCDを聴き終えて正直驚きを隠せなかった。
てっきりロックとか、ジャズとか、ポップスとかそういう類の音楽だと思っていたからである。
再生されたのは男の人の朗読CDだった。
に、してもキレッキレのいい声だ。聞き惚れてしまうほど美しい声。
恐る恐る二枚目のCDもパソコンに入れてみた。
二枚目は、一枚目より破壊力のある内容だった。
これはなんだ?!とCDジャケットを眺めてみる。
『シチュエーションCD』とある。
なるほど女の人はこういうCDを聴くのか。納得納得。
とおもしろ半分でどんどん再生してみた。
大量のシチュエーションCD、
設定も様々ある。
吸血鬼、彼氏、先輩、兄弟などなど…。
最初は興味本位、面白半分で聴いていたが最後にはこんなジャンルもあるのかと感心してしまった。
なんといっても声優の演技はすばらしい。
まるでそこにいるかのような演技。男の俺でさえ聴いていてドキドキしてしまった。
今まで味わったことのないタイプのドキドキ感。
リップ音とかどうやって出してるんだろ、なんて興味を持ち始め
気がついたらシチュエーションCDを聴くのが日課になってしまっていた。
姉が知ったらこんな弟をどう思うだろうか。
様々なCDを聴いている間に
この人の声が好き、というのが出来ていた。
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