14 / 15

第14話

よりにもよって  27歳の男の音楽プレイヤーの中が自分のシチュエーションCDだなんて。 「お、え、えっと…」   何でこちらが焦っているのか 分かっているようには思えない。 とりあえず謝ってみたものの、という感じで 俺と音楽プレイヤーのや画面を交互に見てからきらきらな瞳をこちらに向けてくる。 無邪気すぎる。ちょっと辛い。 「…このCD」 しばしの沈黙を破ったのは 清水時春の方だった。 「初めて年下の演技をさせていただいたので緊張したし、大変だったんですよー」 CDの話を始める清水時春に こっちは驚きの表情を隠せないというのに当の本人は楽しそうに続ける。 「ダミーヘッドマイクも初挑戦だったんですよ!あれすごいんですよ!人の頭の形してて!あ、ご存じですか?」 これが天然イケメンの脅威というやつだ。 無自覚的に傷を抉りにきている。 「あの、」 「はい?」 「男が、こういうCDとかきいてるのって、どう思うんですか」 突然の質問に数秒固まってしまう。 うーんと悩むような声を出して 「俺は、いいと思います!俺もたまに聞くし!しかも自分のCD全部入れてくれてたりしたら嬉しいじゃないですか」  俺の 多分俺の 一番欲しかった答えをくれた。 「それはー……」 俺のことだと、言おうとして 急いで口を塞いだ。 別に俺だけではない。 この人のファンは数え切れないほど沢山いる。 俺は、その中の一人にすぎない。 「音がならなくなってしまったので、これをお渡ししたかったんです」 そっと差し出された箱を 開けてみる。 これは、壊れたものと同じ 音楽プレイヤーだ。 電源をつけて音楽の欄をみると しっかりすべて入っている。    清水時春、シチュエーションCD……… 「同じものをいれたくて中を覗いてしまってごめんなさい」    こういうの、なんていうんだろうか。   ふわふわとした恥ずかしいような嬉しいような不思議な感覚。 「し、幸せですっ、ありがとうございますっ」 「このCDとか、よかったらもらってください」    重そうな袋の中には CDが沢山入っていた。 店別特典で買いそびれた 限定版CDなどが沢山入っている。 「うわぁ………嬉しい……」 「あっ、もうこんな時間……終電、なくなってしまいましたね、ごめんなさい。明日お仕事とか…?」 「明日は休みです」 「あ、俺も。よかったら泊まっていきませんか……?」 まだ若々しいやんちゃそうな笑顔に俺は思わずこくりと首を縦に振っていた。

ともだちにシェアしよう!