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ラストタイム・ラバーズ 11

 情報を情報として理解し、納得しているはずなのに、どうして体中がギシギシするんだろう。 瞳の奥が疼いて鼻がムズムズしてくる。  アトリエに戻ろうと腰を浮かしたタイミングで、休憩室に所員が二人、連れ立って入ってきた。 僕を一瞥して、片方が「あいつまた来てる」と興味なさげに呟く。 一礼して背中を向けると、もう一人の男が会話を続けた。 「可哀想に。シブタニに相手をしてもらえないから、なにもやることがないんだろ。すぐいらなくなるくらいなら、なんであいつを助手にしたんだろうな」  ――え……?  踏み出そうとした右足が、地面から浮いたところでピタリと止まる。 今、彼はなんと言ったのだろう。 「ここを辞めてアメリカに帰るってんで上と揉めてんだろ。あっちに行くなら在庫くんはお役御免だな。でもどうしてアメリカ支社にすら行きたがらないんだろう」 「さあ。どうせもっと条件のいい会社にヘッドハンティングされたに決まってる」 「それしかないか」  聞こえてきたのはよくある社内の噂話。 しかしそう単純に捉えられないのは、話題の中心人物が、シブタニと僕自身だったからだ。

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