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第11話

   学校からの帰り道、いつもの様に柴田と並んで川沿いの道を歩いていると、不意に「小金井くん」と、後ろから呼ばれて振り向いた。 目に入ってきたのは、はじめて見る二人の女子高生の姿。 制服は、電車の中でよく見かける女子高のものだ。 「・・・・はい?!」 返事をする俺の顔を知っているのか、二人のうちの一人が俺の前に歩み寄る。 なんとなく、こういうのは肌で感じるっていうか・・・・・ 前に、さつきに告られた時もこんな感じで、ちょっと身構える俺がいた。 「あの、再来週の土曜日に学園祭があるんですけど、・・・・良かったら来てもらえませんか?」 手には封筒を持っているが、ラブレターとは違う様だった。 少し色の薄い瞳をした可愛い娘だったが、俺は返事に困る。 しばらく何も言えないでいると、横にいた柴田がその娘の封筒を取り上げて俺の胸に突きつける。 「ちょ、・・・おい、・・・・」 手で拒否するが、無理やり押し付けられて仕方なく受け取った。 「あの、中に私のクラスとか、色々書いてあるんで、良かったら読んでください。」 赤くなりながらも言う事はしっかりしていて、俺の方がタジタジだった。 「あ、の・・・・。行けるか分かんないし・・・・。」 「来れたらでいいんです。その時間に居ますから、もし来れなかったら・・・・・それでもいいです。すみません突然。」 そう言うと、二人は向きを変えて振り返らずにバタバタと走り去って行った。 「・・・ひゅ~っ!」 変な声を出した柴田が、俺の背中を小突いた。 「なに!?・・・・なんで俺?」 仕方なく、手にした封筒の中を開けて見る。 学校名とクラス名、出し物と時間帯。それから自分のプロフィール・・・・・? - プロフィールって何? 「いいなぁ~、小金井モテモテじゃん。」 柴田に茶化されて、恥ずかしいから封筒をポケットにしまった。 「うるせえよ。・・・あんな娘知らないし、学園祭とかめんどくせぇ。お前行って来い。」 そう言って柴田に体当たりをした。 「あ、、、、、」 ちょっと強く当たり過ぎたのか、柴田がよろけながら土手の方へ降りて行った。 「あっ、、、、、あっ、、、、、、、」 そう叫ぶと、土手に群生している彼岸花に突っ込んでしまう。 ざくざくと茎を踏んで倒してしまうと柴田は焦ったが、俺も焦っていた。 「ヤバイ。花が落ちちゃったじゃんかよ~・・・・・」 柴田の足元にポトリと落ちた花が、痛々しい。 「あ~あ、なんか呪われそう・・・この花怖い。」 「なんだよ呪うって・・・・・怖くなんかねぇよ、別に。」 花に対して怖いとか云う柴田に笑ってしまうと、足元の花を拾った。 こんな風に直に触るのは初めて。 俺の実家は駅の近くで花屋をやっているけど、彼岸花は店では取り扱わない。 多分、どこの店にも置いてはいないだろう。 この通学路で目にするようになり、俺はなんとなく好きになったんだけど。 「この花って墓地に咲いてるイメージだもん。なんでこんな所に群生してんだろうな。」 柴田の中のこの花のイメージが不吉で、俺は可笑しくなった。 「バカだな、そんなの花に聞けって。・・・綺麗じゃん、この花。」 折れてしまった花を一本手にすると、また上の道を歩き出す。 「それにしても簡単に花が落ちるよな。」 俺は足先で、ちょっと掠めるように蹴ってみた。 すると、道端の彼岸花の花が、ポトっと落ちてしまった。 「あ、・・・・」 一瞬ヤバイと思った時、 「コラッ少年!花に何てことするんだ。」 大きな声が背後で聞こえて、俺も柴田もびっくりして肩が上がった。 そうっと声のする方を見ると、背の高いチャラそうな男がこっちを睨んでいる。 茶髪で、耳には大きなピアスをはめていて、なぜか裸足にサンダル履きといういで立ち。 目鼻立ちの濃い顔をした若い男が、俺の手にした彼岸花に目をやった。 「触るな、毒があるんだぞ。」 そう言って、俺の手を振りほどくと地面に花を落とす。 急に捕まれた腕が痛くて、驚きと痛みとで、俺はその人の顔を睨んでしまった。

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