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第12話

 初対面だというのに、その男は睨んでいる俺に笑いかけてきた。 「小金井・・・・・帰ろうぜ。」 柴田が俺の腕を掴むと引っ張ったが、俺は動きたくなくて。 確かに花を蹴った格好になって、そこは叱られてもしょうがないと思ったけど、毒があるとか・・・・・。 そんなウソを言って俺を怖がらせようっていうのが腹立たしい。 小学生じゃあるまいし・・・・。 「そんなの聞いた事ない。毒性の花がこんな所に生えてるわけが無い、小さい子だって通るのに・・・。」 俺が斜に構えて言うと、男はへらへらしながら俺たちの背後に回った。 「別にいいけどさ、そういうの知らないで綺麗だね~って、眺めてても。でも、キミの手についた汁、舐めるんじゃないぞ。ちゃんと家に帰ったら手を洗っておけよ。・・・じゃあな、少年たち。」 自分の言いたい事だけ言って、さっさと俺たちの前を歩いて行く姿に、俺も柴田も唖然としてしまった。 腹が立つけど、何も言い返せなくて悔しい。 本当に毒なんかあるとは思っていないけど、この花の事を何も知らない俺は口をつぐむしかなかった。 変な男は、俺たちの前をタラタラと歩いている。 俺より少し体格が良くて、服装は案外きまっているのに、なぜか裸足にサンダルって・・・・。 真夏じゃないんだから・・・・。 「あれ、絶対無職だな。大学生には見えないし、サラリーマンなんて全く無理そう。ヤバイ奴なんじゃねぇ?」 柴田が小さい声で俺に話しかけるが、俺もそう思っていた。 時たま店の手伝いで、歓楽街の事務所や店に花束を届けるが、その時街をぶらついている若い奴らと同じ匂いを感じた。 チャラチャラして、何の目的も持たずに遊んでいるような大人。 俺の目にはそう移った。 「あ、やだなぁ・・・アイツも同じ電車に乗るっぽい。まさか降りるとこ一緒じゃないだろうなぁ・・・・。」 柴田は本当に嫌そうな顔を向けると、目を合わさない様に反対方向を向く。 でも、柴田と向かい合う俺にしたら、バッチリ目が合う位置で・・・。 背中を向けるのは、負けた気がして嫌だったから、俺は普通に前を向いて電車に乗っていた。 それでも、視線は合わない様に、少しずらす。 「さっきの女子、結構可愛かったな。おれ、一緒に学祭いってもいいけど、どうする?」 「・・・・・考えとくよ。」 柴田の方が行きたそうにしていて、ちょっと可笑しかったが、すぐに返事をする気にもなれない。 案外こういうのがきっかけで、付き合いが始まったりするのかな?! 女の子を避けていたけど、うちのアネキを思い浮かべれば、別に緊張する事もない。 俺がホモかどうかも分かんないんだから、取り合えずゆっくり話とかしてみるかな・・・。 そんな事を考えていたら、柴田が先に降りる駅に着いた。 「じゃあな、また明日・・・。」 「バイバ~イ。」 ひとりになって、入口に近い所の吊革を掴むと、外の景色を見た。 「おい、手を洗えって言ったろ。キミの触った毒がその吊革を介して別の誰かに回ってもいいの?」 俺の耳もとで声がして、ギョッとなって横飛びをしてしまう。 サンダル履きの男は、真面目な顔をして俺を見た。 - なんなの、コイツ。・・・・・・・・・・まだ言ってる・・・・・・。 気味が悪かった。 「触りませんから・・・・・・。どこにも触れません。」 俺は慌てて、吊革を拭こうとしたがハンカチなんか持っていなくて・・・・ ポケットの中に唯一あったのは、さっきもらった学祭の案内用紙とあの子のプロフィールが書かれた紙。 仕方なく、それを広げるとティッシュ代わりに吊革を拭いた。 - あああ~、何やってんだよ、俺は・・・・・ 「そんだけ拭けばいいんじゃない?!」 サンダル男が笑いかけながら言うから、俺はムッとなった。 次の駅に着くと、ゆっくりドアが開き、学生や通勤客が一斉に降りて行く。 俺も「失礼します。」というと、開いたドアから出て行った。 - ふぅ・・・、よかった・・・・これで開放された。 俺はホッとして胸を撫でおろすと、後ろを振り返った。

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