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第13話
ホッとしたのも束の間、サンダル男は俺の後から付いてくる。
まあ、たまたま同じ駅で降りて行くところがあったんだろう。
そう思って俺は知らん顔をすると先を急いだ。
改札を抜けて、さすがに別方向へ行くんだと思ったら・・・・・・・
さすがに、後を付けられているような気になる。
俺はその場に立ち止まると、サンダル男が追い越していくのを待った。
チラリと振り返るが、声は掛けられなくてホッとする。
- そうだ、アイツが向こうに行っちゃってから帰ろう。
サンダル男の背中を見送って、なんとなく携帯に手を伸ばすと桂の番号を開いてみた。
- もう家に戻ってるかな・・・・。
試験の前にもう一度教えてもらっとこうかな・・・・。
しばし考えて、やっぱり携帯を仕舞う。
この間の晩の記憶が生々しくて、もう少し薄れてからにしようと思った。
気持ちの中では、もうあんなことはしないと心に誓ったが、雑踏の中を歩くと、ポケットに手を突っ込んで携帯を握り締める。
ここに桂の携番が入っていて、俺たちはずっと繋がっていたんだ・・・。
そう思うと、嬉しいような寂しいような、ちょっと複雑な心境だ。
〈トモダチ〉に戻るのって、案外難しいものなんだな・・・・。
商店街に差し掛かると、駅から歩く事15分。
実家の花屋の前に着いた。
所狭しと花の入ったバケツや鉢物やらが置かれていて、母親が大きな花束をラッピングしている。
3階建てのビルの1階は店舗で、2階3階が自宅になっていたが、店の奥に自宅へ続く階段があった。
「あ、お帰り。」
俺に気づくと、ラッピングの手を止めて母親が言う。
「・・・おう、」
小さく返事をして奥へ行こうとしたが、俺の足が止まった。
- 居た。
そこには、奥に置かれたテーブルでお茶を飲んでいるサンダル男の姿があった。
「・・・・・」
「あれ?・・・少年はここの子だったのか?」
気づいて俺を見るが、驚きながらも笑っている男。
- もう、本当に今日はなんて日なんだ!
心の中で叫んでみたけど、一応は客らしいから頭を下げておく。
「どうも・・・・。」
それだけ言うと2階へ上がろうとしたが、「ちょっと千早、手伝って!!」と母親に呼ばれる。
「チハヤ、っていうのか・・・可愛い名前だなぁ。お母さんのセンスですか?」
「はははッ、旦那がつけたのよ。きっと昔の女の名前かなんかでしょ?!」
俺の母親は、実にあっけらかんとした性格で・・・・言わなくてもいいことを言う時がある。
「なんだよ。何を手伝えば?」
椅子の上に鞄を置いて近づいた。
「コレ、天野さんのお店に運んで。ひとりじゃ持ちきれないから・・・。」
「え?・・・・店?!」
- このサンダル男は 天野 という名前らしい。
「悪いね、チハヤくん。店の女の子が誕生日でさ、花が無いと盛り上がらないじゃん。」
- あぁ、キャバクラか何かか・・・・。
そう思った俺はちょっとムスッとしながら「俺、未成年ですから、そういう店には・・・・」と言ってやった。
目の前で、キョトンとするサンダル男、もとい、’天野’さんが俺の顔をじっと見る。
- なに・・・・・?!なんか、変な事を?
母親の方に顔を向けると、二人してクスクスと笑い合う。
「天野さんのお店って、美容院。ヘアーカットするトコよ。あんたもその変な頭、切ってもらいなさい。」
「ええ・・・・・?美容院?!」
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