13 / 167

第13話

 ホッとしたのも束の間、サンダル男は俺の後から付いてくる。 まあ、たまたま同じ駅で降りて行くところがあったんだろう。 そう思って俺は知らん顔をすると先を急いだ。 改札を抜けて、さすがに別方向へ行くんだと思ったら・・・・・・・ さすがに、後を付けられているような気になる。 俺はその場に立ち止まると、サンダル男が追い越していくのを待った。 チラリと振り返るが、声は掛けられなくてホッとする。 - そうだ、アイツが向こうに行っちゃってから帰ろう。 サンダル男の背中を見送って、なんとなく携帯に手を伸ばすと桂の番号を開いてみた。 - もう家に戻ってるかな・・・・。 試験の前にもう一度教えてもらっとこうかな・・・・。 しばし考えて、やっぱり携帯を仕舞う。 この間の晩の記憶が生々しくて、もう少し薄れてからにしようと思った。 気持ちの中では、もうあんなことはしないと心に誓ったが、雑踏の中を歩くと、ポケットに手を突っ込んで携帯を握り締める。 ここに桂の携番が入っていて、俺たちはずっと繋がっていたんだ・・・。 そう思うと、嬉しいような寂しいような、ちょっと複雑な心境だ。 〈トモダチ〉に戻るのって、案外難しいものなんだな・・・・。 商店街に差し掛かると、駅から歩く事15分。 実家の花屋の前に着いた。 所狭しと花の入ったバケツや鉢物やらが置かれていて、母親が大きな花束をラッピングしている。 3階建てのビルの1階は店舗で、2階3階が自宅になっていたが、店の奥に自宅へ続く階段があった。 「あ、お帰り。」 俺に気づくと、ラッピングの手を止めて母親が言う。 「・・・おう、」 小さく返事をして奥へ行こうとしたが、俺の足が止まった。 - 居た。 そこには、奥に置かれたテーブルでお茶を飲んでいるサンダル男の姿があった。 「・・・・・」 「あれ?・・・少年はここの子だったのか?」 気づいて俺を見るが、驚きながらも笑っている男。 - もう、本当に今日はなんて日なんだ! 心の中で叫んでみたけど、一応は客らしいから頭を下げておく。 「どうも・・・・。」 それだけ言うと2階へ上がろうとしたが、「ちょっと千早、手伝って!!」と母親に呼ばれる。 「チハヤ、っていうのか・・・可愛い名前だなぁ。お母さんのセンスですか?」 「はははッ、旦那がつけたのよ。きっと昔の女の名前かなんかでしょ?!」 俺の母親は、実にあっけらかんとした性格で・・・・言わなくてもいいことを言う時がある。 「なんだよ。何を手伝えば?」 椅子の上に鞄を置いて近づいた。 「コレ、天野さんのお店に運んで。ひとりじゃ持ちきれないから・・・。」 「え?・・・・店?!」 - このサンダル男は 天野 という名前らしい。 「悪いね、チハヤくん。店の女の子が誕生日でさ、花が無いと盛り上がらないじゃん。」 - あぁ、キャバクラか何かか・・・・。 そう思った俺はちょっとムスッとしながら「俺、未成年ですから、そういう店には・・・・」と言ってやった。 目の前で、キョトンとするサンダル男、もとい、’天野’さんが俺の顔をじっと見る。 - なに・・・・・?!なんか、変な事を? 母親の方に顔を向けると、二人してクスクスと笑い合う。 「天野さんのお店って、美容院。ヘアーカットするトコよ。あんたもその変な頭、切ってもらいなさい。」 「ええ・・・・・?美容院?!」

ともだちにシェアしよう!