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第14話

 ファッションセンスは普通の人よりイイかも。 でも、裸足にサンダル履きはちょっと・・・・・。 まじまじと天野さんの顔を見つめてしまったが、 「そうだ、良かったらオレがカットしてあげるよ。もちろんタダでいい。」 そう言われ、母親の方を向くとニンマリ笑っているから、俺はお言葉に甘える事にした。 美容院ってなかなか入りづらくて、かといって母親と一緒は嫌だし、父親なんかと床屋に行った日には、バリカンで刈られそうだし。 丁度良かったと思った。 「お言葉に甘えて、よろしくお願いします。」 頭を下げながら言うが、さっきまでの俺はこの人を気味悪いヤツだと思っていたのに・・・・。 なんて変わり身の早い自分・・・・・。 ラッピングの終わった花束を2つ抱えて、天野さんの後について行くと、駅前の大通りに面した美容室へと案内された。 「ここですか・・・・・?」 「そう。」 「すごいですね・・・。」 俺が感心したのは、その店舗の大きさだけじゃなくて、髪の毛だけじゃなく、メイクのスタジオみたいなコーナーもあるからだった。 「初めて見た。成人式とか結婚式の着付けなんかもするんですか?メイクも?」 ちょっとワクワクしながら聞いてみるが、天野さんは特に表情も変えずに頷いていた。 大きな花束を店のテーブルの上に置くと、俺はぐるりと辺りを見回す。 もう終了時間が近いのか、お客さんは2~3人だったが、スタッフが4~5人いて俺と天野さんをじっと見ていた。 「チハヤくん。そこのシャンプー台に座って。ざっと流すから。」 そう言われて、シャンプー台の椅子に腰掛けると、首にタオルを巻かれて頭をシャンプー台につける。 「え、・・・天野さんが流してくれるの?」 俺が驚いて聞くと、 「そう、すべてオレがするの。他の子に触らせるの勿体ないもんね。」 そう言って、俺の顔の上に、フワリと何かをかけた。 しばらく流してもらい、ざっと拭くと、タオルに包まれた頭をポンポンとされて、鏡の前に座らされた。 奥でスタッフがこちらを見ているが、何も言わないまま。 「チハヤくんって、髪の毛濡れると益々きれいな顔してるの分かるねぇ・・・。お母さんに似てるんだね。」 「え?・・・・・っそんな事・・・・・ないです。」 凄く気恥ずかしい。 母親に似ていると言われるのは昔からだけど、キレイとか言わないでほしかった。 男の俺が綺麗でも何の得にもならない。 「どうしよっかな~。あんまり短くするのは、雰囲気変わり過ぎて良くないし、長い髪が似合ってるからね。少し削るぐらいにして、軽くするだけにしとくね!?」 「はい。」 何でもいい。俺は天野さんに任せる事にした。 じっと鏡に映る姿を見ていると、あのヘラヘラした顔が案外真剣な顔になってきて、勝手にキャバクラを想像して申し訳なく思った。 ちゃんと美容師なんだな。 軽快にハサミの音がして、俺の髪は自然なスタイルを保ちつつカッコよく整えられていった。 「はい、これでいいよ。」 「ありがとうございます。」 一応お礼を言うと立ち上がる。 さっきのお客さんはもう帰った後で、スタッフの人だけが俺の終わるのを待っていた。 なんだか申し訳なくて、「すみません。時間貰っちゃって・・・・・。天野さんも、大丈夫ですか?片付けとか掃除とかあるのに・・・」 そう言って天野さんとスタッフの人に頭を下げた。 奥に居た女性スタッフが、俺の所に近寄ると、 「大丈夫ですよ、オーナーは掃除とかしませんから。私たちが、今からします。」 俺のタオルを外しながら言った。 「・・・オーナー???」 俺の問いかけに、ニッコリ微笑む天野さん。 どう見ても20代の半ば。とてもオーナーには見えなくて・・・・・。 世の中には、チャラくても人の上に立てる人間がいるんだと分かった。 それから、自分のこの人を見る目が、あまりにも陳腐で申し訳ないと反省した。

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