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第15話

 「良かったら、今から店の子の誕生会やるんだけど、来ないか?」 「え?俺が、ですか?!」 天野さんに誘われて驚くが、あまりにも突然で返事に困る。 「・・・えっと、試験が近いんで、ちょっと・・・・。」 一応勉強もしておかないと、と思って断ろうとした。 「そうか・・・・、まあ仕方ないか。なら、連絡先教えて。携帯もってる?」 そう聞かれ、「はい。」と答えた。 俺に何の連絡をしようっていうんだろう・・・・。 ちょっと不思議に思ったが、携帯を取り出すと番号を教えた。 「ありがと。今度頼み事するかもしれないから、よろしくね。」 「あ、はい・・・。」 そんなやり取りをして、俺は美容室を後にした。 天野さんは入口で見送ってくれて、にこやかに微笑んでいた。 本当に今日は変な一日で、イラついたりドキッとしたり呆気に取られたり・・・・・・・。 そう言えば、あの彼岸花の毒の話を確かめるのを忘れていた。 あれがきっかけだったのに・・・・・。 大通りをひとり歩きながら、そんな事を考えている時だった。 目の前のビルから出てきた人影を見て足が止まる。 - 桂・・・・・ 上を見上げると、そこは塾が入っているビルで、桂はこの塾に通っているんだろうか、と思った。 と、その時、桂の後ろから小柄な女の子が付いて行くのが見えて。 ・・・・・・あぁ、・・・彼女、かな? 〔藤ヶ谷女学院の一年生〕 そんな事を聞いた覚えがある。 長谷川が言っていたんだ。 見ると、桂は何も持っていないから、きっと彼女を迎えに来たのかと思った。 俺は、なんとなく二人の事を目で追ってしまう。 声を掛けるのも躊躇するほど、二人が仲良く話しながら歩いている姿を見て、俺の中の何かがジクジクし出した。 なんだろう・・・・。 そう言えば、中学の時には桂が誰かと付き合ってるとか聞いた事がない。 俺はつくづくそういう事に興味が無かったんだな、と思う。 桂は頭も良くて優しいから、女子には受けが良かったけど、誰か特別な子がいたわけじゃなかった。 気づくと、俺や他の男子といたからなぁ。 後ろから見ていると、小柄でセミロングの娘が、桂の手を取った。 すると、一瞬隣の彼女に目をやった桂が、ちゃんと手を繋ぎ返す。 - あ、・・・・・・・・・ 思わず口を開けて、言葉が出そうになる俺は、慌てて口を塞ぐ。 何故だか、桂が〔男〕なのを再認識して、胸が熱くなった。 俺だって、さつきと手を繋いで帰っていたじゃないか・・・・。 あの頃は、それが当たり前の事の様に感じて、深く気にした事はなかった。 でも、こうして仲の良かった男友達が、彼女と手を繋いでいるのを見るのは変な感じで。 それがあの桂だから、俺は余計にソワソワしてしまうんだ。 一体どこまで手を繋いで行くのかと、後ろをついて歩く俺は気になったが、自宅へ帰るのに横断歩道を渡らなきゃならなくて。 少し先を歩く二人を目で追いながら、交差点に差し掛かる。 信号が赤で、立ち止まった二人に近づく格好になると、俺の中に焦る気持ちが沸き起こる。 - どうしよ・・・・声かけないと余計に変かな・・・・・。 そう思っていたら、彼女が桂の手を離してバイバイ、という仕草で手を振った。 桂も手を振り返す。 ちょっと身構えたのに、肩透かしを食らった俺は、桂の背後から「よッ!」と声をかけた。 振り返って俺を見た桂が、目を丸くして驚く。 「なんだ・・・・千早・・・か。」 「なに、彼女とデート?」 俺はさっきの彼女の事を聞いた。別に聞くつもりはなかったのに、口をついて出てしまったんだ。 「・・・や、デートじゃないよ。塾が終わるの待って、ここまで歩いてただけだから。」 「・・・・お前、それだってデートっていうんじゃん。わざわざ終わるの待ってて帰り道に喋ってんだろ?!」 桂の答えがおかしくて、俺が確認してやった。 「え、こういうのもデートになるの?」 目を丸くして聞いてくる。 「お前さあ・・・・・・」と言いかけたが、止めた。 信号が青になって、二人で渡ると同じ方向へと歩いて行く。 しばらく歩いて細い道に入ると、 「こういうのもデートっていうのかなぁ・・・・。」 ポツリと桂が言った。 「え?・・・・・・・」 俺は桂の顔を見る。 桂も俺の方に顔を向けると、ニッコリと笑った。 - ヤ、・・・・・それって可笑しいだろ? 俺たちは、ただ同じ方角に住んでるから一緒に歩いてるだけだし・・・・・

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