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第16話
並んで歩く二人の影が、外灯に照らされて地面を這う。
黒く長い影は、微妙な距離を保ちつつ肩が触れそうになると意識的に離れた。
「なあ、あの子と・・・・・キスした?」
「え?・・・・・・・・・・うん、したよ。その先もね、・・・・・・・・・した。」
「そっか。」
「うん。」
なんとなく想像はできる。
桂のキス。
あの日、俺にしたみたいなキスを彼女と交わしたんだ。
桂の家の近くに来て、「じゃあ。」と言って別れる。
顔はよく見なかったけど、お互いに恥ずかしくなったのか、俯いたままそれぞれの自宅へと歩いて行った。
「ただいま・・・・。」
花屋のシャッターは降ろされていて、ドアを開けると中にいた母親に声をかけた。
「ああ、お帰り。いいじゃない、その髪型。さすがねぇ、天野さん。」
ひとしきり俺の頭を褒めているが、俺はそんなことを喜ぶ気持ちにはなれなくて.........。
「腹減った。」
そういうと2階の自宅へと上って行った。
テーブルに置かれた晩御飯は、俺の好きなピーマンの肉詰めとマカロニサラダ。
オニオンスープもあって、いつもなら喜んでご飯をかき込むのに・・・・・
腹は減っているのに、なぜだか胃の辺りが重くてご飯が進まなかった。
「どうかした?いつもみたいにがっついて食べてないじゃない。」
「別に・・・・。腹減り過ぎて、なんか入らないんだ。風呂から出たら勉強するから、おにぎり置いといてよ。」
「うん、いいけど・・・・。」
母親が俺の顔をまじまじと覗き込むと言うけど、そういう事が鬱陶しく感じてしまう。
せっかく髪の毛もスッキリして、本当ならもっと喜んでいるはず。
なのに、今の俺は消化不良の様な感覚で、身体も気持ちもスッキリしない。
- 桂のせいだ・・・・・・・。
それは自分でも分かっていた。
あんな事聞くんじゃなかった・・・・・・。
いや、聞かなくても、あの二人の姿を見たらきっと同じようになっていた。
自分が彼女出来ないからって、桂を羨むのは間違っている。
俺は、・・・・・・・・・・・。
羨ましいのか?
・・・・・・・・・、いや、違うな。この気持ちは羨ましいんじゃない。
せっかくの俺と桂が〔トモダチ〕をやり直す時間をあの子に奪われた気がしているんだ。
男友達と彼女じゃ、どうしたって彼女を優先するだろう。
俺なんかと会って、しかも勉強を見るなんてつまんないに決まってる。
風呂から出て、早速試験勉強を始めようとした俺は、問題集を棚から取り出した。
机の上に広げてみると、この間桂が指摘してくれたところにラインマーカーが引かれてあって、その部分を指でなぞってみた。
ここは絶対出るって言ってたな・・・・・。
しばらく見ていると、「入るよぉ。」と声がして、アネキがおにぎりを持ってきてくれた。
「めっずらしいわねぇ、千早が勉強するなんて!台風が来るってさ。」
「は?・・・・・あっそぅ。俺が勉強すると台風が来るのかよ。ふざけんなよ。」
「やだ~、機嫌悪ぅ~~~。じゃあね、しっかり勉強するんだよ。」
そう言って、アネキが部屋から出て行った。
4歳年上のアネキは大学生で、5つ年上の男と付き合っていた。
まだ成人式を済ませたばかりなのに、もう結婚の話とかしてやがる。
俺には全く分からない。
好きになるって、どういうことだろう・・・・・。
結婚したいって思える相手が、いつか俺にも表れるのかな。
俺、ホモかもしれないのに・・・・・。
そういうのって、どこをどうしたら分かるものなんだろうか。
・・・・・・・女の子と付き合って、キスよりもっと先へ進んだら分かるのかな・・・・・。
結局、勉強と関係のない事を延々と考えていたら夜も更けてしまい、また眠れぬ夜を過ごした俺だった。
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