18 / 167

第18話

 静かな音楽と共に、頬に当たる柔らかい感触が、俺に心地良い眠りを与えてくれる。 思わず頬ずりをして、もう一度くるまる様にからだに纏うと、向きを変えてみた。 その時、生暖かい体温が俺の膝小僧に伝わる。 うっすら目を開けて、自分の意識をさかのぼってみるが、空白の時間があるようで。 「ここ、・・・・・え?なに???」 俺が目を覚ますと、そこは大きなキングサイズのベッドの中。 頬に当たる柔らかいものは、シルクのシーツのようで、今は全身がスベスベの感触に包まれているのが分かる。 更に、さっき膝に当たった生暖かいもの。 その正体が、俺の目の前で眠っていた。 その人を見て、俺は自分でもびっくりするくらいの叫び声をあげた。 「ぉわっっっ////////!!」 「あ、・・・目が覚めた?」 その人は、俺の叫び声で顔をあげて聞いた。 「あ、天野さん!!・・・・これは?」 「今日は、花屋の休業日かなんか?誰も出て来ないんだよ。シャッター閉まってるしさぁ。」 天野さんは、ベッドの中で大きく伸びをすると言うが、俺は即座に母親が朝言っていた言葉を思い出す。 「そうだ、今日は日帰りのバスツアーに行ってくるって・・・・。聞いていたんだった・・・・。」 やっと頭がすっきりして、そのままうな垂れた。 「あッ!!」 突然大きな声を出す俺に、天野さんもビクっと肩をあげたが、自分の姿を目の当たりにして声を上げずにはいられなかった。 俺は、どういう訳か裸になっている。 「こ、これ・・・・は?なんで俺ハダカなんですか?」 「いや~、花屋は閉まってるし、チハヤくんは寒い寒いっていうし、しょうがないからオレの家に連れてきて介抱してたんだよ。」 「か、いほう、って・・・・ハダカで?」 「寒い時は裸で温め合うといいんだって。服着たままじゃ、汗をかいてまた冷えちゃうからね。」 「・・・・・・・・・・」 俺は絶句した。車から此処まで歩いて来たんだろうに、全く記憶にはなかったから.........。 「おいで、また熱が上がっちゃうよ。」 「いえ、いいです・・・・大丈夫ですから。」 慌ててベッドから飛び出ると、その辺に自分の服が置かれていないか探す。 「慌てなくても、病人に手は出さないって!」 天野さんはクスッと笑いながら、ベッドの先のサイドボードを指差した。 見ると、そこには俺の制服と下着が畳んで置かれていて......。 取り敢えず焦って着替えると、俺は頭を掻く。 それから、少しだけ天野さんの会話をさかのぼる。 - 病人には手を出さない・・・って?! そもそも、俺は女の子じゃないのに。なに言ってんだ? 「あの、すみません。ホントに有難うございました。俺すぐに帰りますから。」 ジャケットに袖を通しながら言ったが、天野さんはベッドの中で頭を起こすと、つまらなさそうな顔をした。 「残念だなぁ、お母さんたち何時に帰って来るのさ。晩飯食べて帰んなよ。」 そう言われ、「いえいえ、」と手を振った。 これ以上迷惑をかける訳にはいかないし、裸で男と寝てただなんて想像したら、胃が痛くなった。 平気なのか?! 天野さんは、こんな事が平気で出来る人なのか?! 驚きの方が強くて、頭の痛いのをすっかり忘れるほど、俺は混乱していた。

ともだちにシェアしよう!