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第19話

「か、帰ります。お邪魔しましたっ!」 頭を深々と下げて、カバンをかかえるとドアに向かった。 「ちょっと、ちょっと。ここがどこか分かってる?歩いてなんか帰れないよ。」 「え?」 天野さんの車に乗せられて、知らない間に家に連れてこられたけど、俺はここが自分の家の近くだと思い込んでいた。 でも、そんな風に言われると不安になる。 「あの、・・・・・どこですか?」 恐る恐る聞いてみた。 「教えな~い。」 「・・・・・・・・・は?」 - 何を言ってるんだ、この人は。 「や、困るんですけど。電車で帰れますか?」 俺は、天野さんが子供みたいなことを言うから、半ば呆れてしまった。 いくら俺に記憶がないとはいえ、知らない場所に連れて来ておいて、帰ろうとしたら場所を教えないとか・・・・。 「いいです。取り合えず外に出たら駅を探しますから。」 ドアを開けると、一礼して外へと続く廊下を歩く。 意外と広い家の様で、マンションだと思ったら二階に上がる階段があって、一軒家なんだと分かった。 家族は留守なんだろうか・・・・。 奥さんとかいないのかな・・・・。 そんなことを考えながら玄関についたから靴を探した。 ・・・・ない。 - 俺のスニーカー・・・・・・・ - くそぉ//////// 病人の俺を茶化しているのか?! 靴を探して、下駄箱らしき埋め込み式の棚を上から覗いてみるが、全く見当たらず。 仕方がないからまた寝室へと足を運んだ。 ドアを開けると「俺のクツどこにやったんですか?玄関にないんですけど!!」 もう俺もヤケになって、怒ったように言ってしまった。 「ああ、アレは車の中に置いて来た。」 当然のように言うが、俺はここまで裸足で歩いて来たのか? 「天野さん・・・・・。」 本当に大人げないというか・・・・・俺で遊んでいるのか? 「だったら車のカギを貸してくださいよ。俺取ってきますから。」 「全く、往生際が悪いなぁ・・・・。」 天野さんはベッドから躰を出すと、シャツを羽織った。 それから、椅子に掛けられたジーンズに足を入れ、ゆっくりファスナーを上げる。 「チハヤくんの家から此処まで、車で1時間半ぐらいか・・・。ちなみにバスはもう出ていない。9時までだからね。」 「え?????って、なんでそんなに遠くへ?うちの親が心配するじゃないですか。何なんですか・・・?」 理解不能な人間と初めて会った。 第一印象がヤバそうな感じだったけど、ちゃんと店のオーナーだし、信用していたのに・・・・・。 俺はすっかり頭痛も寒気も感じなくて、いまは一刻も早くここから出たい衝動にかられた。 「そんなに怒んなって。ちゃんとお母さんには連絡しておいたから。携帯借りたから、最初びっくりしてたけど、ちょっと熱出してるからうちで休ませて明日は学校へ送ってあげますって言っといた。」 「・・・・・天野さ~ん。・・・・・」 ここまでのやり取りで、すっかり帰る気が萎えてしまった俺は、カバンを床に置いた。 それから座り込むと膝を抱える。 「サンドウィッチぐらいなら食べられるだろう。何かお腹に入れて、風邪薬飲んでおけば明日にはよくなってるさ。」 そういうと、座る俺の手を引いて、ドアから出て行った。 家の割には小ぶりのキッチンがあって、冷蔵庫の中からサンドウィッチの乗ったお皿を取り出すと、俺の目の前に置く。 「これ、天野さんが?」聞いてみたが、ここには他に人もいなくて、天野さんしかいないと思った。 「いただきます。」 手を合わせると、一口頬張る。 意外とおいしくて、フランスパンにローストビーフとレタス、オニオンスライスが挟んであって、俺の家では絶対に出て来ないサンドウィッチをがっついて食べる俺だった。

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