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第20話

天野さんという人は本当に謎の多い人で、目鼻立ちのはっきりした顔は女の人にもモテそうだし、美容室のオーナーだし、家からしてお金もありそうなのに、どことなく胡散臭さを感じるのはどうしてだろう。 向かいに座る天野さんに目をやると、じっと見てしまった。 「なんだ?顔に何かついてる?」 自分の頬を擦りながら俺に聞くから可笑しくなったが、「いいえ、別に。」と、首を振った。 しっかりと胃袋を満たした俺は、さっきよりも元気が出たみたいで、立ち上がると食器を片付ける。 流しに持って行くと、洗おうとしたが、「そのままでいいから。チハヤくんは薬飲んで横になってろよ。」と言われる。 テーブルの上には、ちゃんと食後の薬まで用意してくれていた。 「でも、悪いですし・・・。」 「いいって。それとも、また熱が出てもいいのか?今度弱った姿をオレに見せたら、どうなるかは知らないよ。」 「え・・・・?」 また変な事を口走っている。 「あの、俺は男ですから、別にどうにもならないですよ。残念ですけど。」 結局そのままにして、テーブルにつくと薬を飲んだ。 熱は下がっていると思うけど、天野さんの好意に甘えて今夜は泊めてもらうことにする。 明日学校へ送ってくれるっていうし、たった一日、一晩の事だ。 お礼は、また今度考えようと思った。 - - -  軽くシャワーを浴びて、スウェットの上下を借りると、さっきのキングサイズのベッドに潜り込む。 - 男二人でも余裕だな。 そんなことを思いながら、天野さんの寝る場所から少し離れて背を向けるようにした。 なんとなく、陸上の合宿を思い出す・・・・・。 俺が独り占めするように横たわっていると、シャワーを終えた天野さんがベッドに入ってきた。 目を開けると面倒なので、俺はそのまま眠ったふりをして目を閉じていた。 余裕のあるはずのベッドが、どういう訳か俺の背後には天野さんの腕が添えられていて、足もすぐ後ろに感じられた。 なんか・・・・・こういうのって・・・・・、 考える間もなく、天野さんの腕は俺の脇腹を抜けて腹をつつむ。 後ろから抱きつかれる格好になって、ちょっと焦る俺に気づいたのか、 「このまま寝ようよ。落ち着くから・・・。」 そう言って天野さんは動かなかった。 「・・・・・はい。おやすみなさい・・・・。」 「うん、・・・」 本当に、このままの格好で寝る気だ。 俺はなんとなく落ち着かないんだけど・・・・と思いながらも、動くわけにもいかずじっとしていた。 それでもいつの間にか、背後で聞こえる天野さんの寝息につられるように、俺も眠りに落ちたようで.........。

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