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第22話

 「そういや、この間学祭に誘われたの、どうすんだよ。行くのか?」 体育の授業で、走る順番を待っている時に柴田が聞いてきた。 100mのタイムを計るっていうから、俺は本気モードだっていうのに、力が抜けるって・・・・。 「アレさぁ、あの紙無くしたんだ。ポケットに入れといたら落としたみたいで。」 「ぇえ??!うっそ。なんでだよ~、ちゃんとカバンにしまっとけよな!」 柴田が真面目な顔をして怒っている。本当は、あの紙で吊革を拭いちゃって、捨ててしまったんだった。 それにしたって、誘われたのは俺。なんで柴田に叱られなきゃならないんだよ・・・・。 「悪かったな、お前行って来いよ。適当にうろうろしてたら会えるかもよ?!」 俺はまるで人ごとの様に言うと、順番が来たのでスタート位置についた。 「用意。ピーツ、、、、」という合図で地面を蹴ると、風になびく髪の毛が心地よくて、俺の中のモヤモヤを吹き飛ばすぐらい爽快な気分にしてくれた。 陸上をやっていた頃は、何も考えずタイムを縮める事だけがすべてで、あの頃に戻りたいと思った。 15の俺は、まだ何物でも無くて、さつきや桂ともわだかまりのない毎日を送っていたんだ。 ただ学校へ行くのが楽しくて、将来の夢とか好きなものに囲まれる生活に憧れていただけだった。 ・・・・自分の根幹を揺るがすような性癖に、悩む日が来るなんて考えてもみなかったよ。 - - -  授業が終わり、昇降口の所に着いた時、カバンの奥で携帯が震えた。 特に気にすることもなくそのままにしていたが、全く止まないので取り出して相手を確認する。 表示されたのは桂の名前と番号。 一瞬、今朝の事が頭に浮かんで、携帯を持ったまま固まる。 - なんだろう・・・・ 「はい、・・・・・」 俺は小さな声で電話に出た。 「あ、千早・・・・・?良かった、出てくれて・・・・。」 電話の向こうで、息を切らすみたいに話す桂。 「どうかした?・・・・」 「や、別にどうも・・・。っていうか、お前がなんかあったんじゃないのか?」 そう言われて、「え?・・・・別に何も・・・・。」と言う俺。 桂は、俺が今朝知らない人の車に乗っていたことが気になっていたようで、電話をしてきたらしい。 「心配するような事じゃないけど、ちょっと頭が痛くなって、あの人の家に泊まってしまったんだ。薬飲んで寝たら治った。」 「そうか・・・なら、良かった。」 それだけ言うと、電話を切ろうとするから、俺は思わず「今夜、桂ン家行ってもいい?」と聞いてしまった。 「え?・・・・・いいけど、大丈夫なのか?!」 「うん、もう全然平気だ。8時になったら行くから、英語教えて。」 「オッケー、じゃあ、待ってる。」 「うん。」 通話が終了しても、しばらく画面を見ていた俺は、自分でも驚いていた。 何故だか、電話をもらえた事が嬉しくて、桂が俺の事を気にしてくれたのが心地よかった。 - 俺と桂は、昔のようないい友達に戻れる。 今はなんとなくギクシャクしているけど、きっと時間が経てば元通りだ。 そう考えたら少しだけ気分も晴れて、家に帰る足取りも軽くなった。

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