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第49話
.................ん、..........ン、
天野さんの舌が俺の咥内を這うと、鼻から息が洩れて、酒の匂いが伝わり酔いそうになる。
「あ、まのさ、ん............もっ、.......」
少し手をかざすと、口元を隠す様にして言った。
これ以上は自制がきかなくなりそう。
スタッフがカーテンの向こうにいるのに、興奮したらヤバくて・・・。
「じゃっ、上に行こうか?」
天野さんがにこやかに言うけど、俺はちょっと返事に困る。
みんなが楽しんでいるのに、俺と天野さんが抜けるのは悪いんじゃ・・・・?!
「悪いよ。みんな天野さんと話したいだろうし、スタッフの慰労会なら天野さんがいなくちゃ。」
天野さんの胸に手をやると、少し押す様にして言った。
「・・・そうだな・・・・。まあ、千早くんがそういうなら、今日はみんなと居る事にする。」
「うん、じゃあ俺は帰るから。暇になったら、また遊んでください。」
「残念だなぁ・・・。歳を越すまでは予定がいっぱいでね。お正月も会えるかなぁ・・・。」
本当に残念そうに言うから、ちょっと切なくなる。
でも、ここは大人の天野さんに合わせる方がいいだろう。
「いつでも呼ばれたら来るから。天野さんの時間が出来たらでいいよ。」
「・・・・・オッケー、じゃあそうさせてもらうな、・・・・・。」
微笑む天野さんに、俺もにこっと笑いかける。
それから、カーテンを開けて店の方に進むと「おやすみなさい。メリークリスマス!!」と大きな声でみんなに向かって言った。
「え?!・・アレ、帰っちゃうの?」と、スタッフの誰かの声がしたけど、ゆっくりドアを閉め、そのまま舗道を歩いて行った。
賑わう街の雑踏と、軽快なクリスマスソングを聞きながらも、俺の気分は晴れなくて。
天野さんに合わせて、大人ぶった自分が少し滑稽に思える。
普通の恋人同士は、どうやって過ごしているんだろう・・・・。
こういう、イベントみたいな事を一緒に過ごすことで、’好き’って気持ちが強くなっていくのかな・・・・?
家の近くまで来て、何気なく交差点の先に目が行くと、さっき病院で別れた桂の事が頭をよぎる。
頭から布団を被ってしまって、あんな拗ねるような桂を見たのは初めてだった。
今まで、アイツは俺なんかよりも大人で思慮深くて、何でも教えてくれる存在だったから・・・。
訳の分からない事を俺に言って拗ねるだなんて・・・・・。
はぁ~~~~
クリスマスに、一人でため息をつく俺って可哀そう。
- - -
翌日、俺は柴田にメールを送ると、桑田さんの元カレが入院したって伝えるように頼んだ。
場所と部屋の番号を送ると、そっと携帯を閉じる。
おせっかいでも何でもいい、桑田さんは桂の事をまだ好きみたいだったし、お見舞いに来てくれたら桂だって嬉しいかも。
俺が行って、また変な感じになるよりはいいだろうと思った。
それに、気持ちのどこかで、アイツが一人でいることに不安を感じるんだ。
親は離婚して、日本にも戻ってこない。
桂は、ずっと祖父母の元に居て、孤独なんじゃないかと思った。
俺は、昔からそんな風に感じていたのかもしれない。
だから、用もないのに桂の家へ行って、勝手に上がり込んではしゃべっていたんだと思う。
桂が誰かと居れば、それで安心できるような気がした。
それが俺じゃなくても、別の誰かでも...................。
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