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第50話
年の瀬のこの時期、花屋を営む俺の家はすごく忙しい。
正月飾りや門松や、その他来客用に生花を購入してくれるお客さんが増えて、さすがの父親も店先で門松の運び込みをしていた。
「千早ぁ、そこの段ボール取ってくれ!」
「あ?・・・・コレか?」
足元の箱を抱えると、表の父親に渡す。
店先にしゃがみ込んで、門松の剪定をしている姿を見ると、
「この時期だけだよな、親父が店にいるのってさ。」
そう言って隣に並んでしゃがみ込んだ。
「おいおい、それじゃぁまるで俺が働いていないみたいじゃないか。人聞きの悪い言い方すんなよな。」
顎の髭を手の甲で擦りながら言う父親。
その顔は、まるで拗ねた子供の様だったが、実際にこの父親は子供がそのまま大人になった様な人で。
ただ、いつの間にか、飲食店や会社の事務所に、花を置かせてもらうという仕事をもらってくるけど、それをどこで取ってくるのかが謎だった。
昔はそんな事気にもしなかったけど、最近は天野さんの影響もあってか、仕事して稼ぐという事に興味が出てきて。
もちろん、昔から服とか雑貨には興味があって、いつか自分で店をやりたいとは思っていたんだけど・・・。
剪定された商品を店頭に並べると、また忙しい一日が始まる。
今朝、柴田からメールが来た。
正月の遊びの誘いと、先日桑田さんの元カレが入院中という報告を入れた件で、中島さん経由で聞いた事を書いていた。
桑田さんは、中島さんとお見舞いに行ったらしいけど、特にモトサヤにはならず、そのまま別れたという。
中島さんが言うには、桂には他に好きな人がいる気がするという事。それから少しやつれた気がして可哀そうだったという事が記されていた。
まあ、食事制限とかあるのかも。と思った俺だったが、他の好きな人ってのが腑に落ちない。
桑田さんの事は一体何だったんだ?!
彼女は、確かにハッキリし過ぎている感じはするけど、可愛いし男なら一緒に居て楽しいんじゃないのかな・・・?
俺のように女の子が無理な男じゃなきゃ・・・・。
・・・・・・・、あ、・・・・・・・・っ
一瞬、頭の中をよぎった光景に、慌てて蓋をした。
アレは、もう2年も前の、互いにふざけたみたいな行為。
ちょっと自制がきかなくなっただけで、そのおかげで俺は自分の性癖を知る事になったんだけど・・・。
桂は、俺とは違う。
ちゃんと桑田さんと付き合ってたんだし。
・・・・でも、手を繋いだだけって・・・・・
俺も、さつきとは手を繋いだだけだった。
その先は、自分から進みたいとは思えなかったから・・・。
桂も、そうなのか?!
・・・・・・・・・・・・・・・まさか、な。
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