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第51話
桂の顔が浮かんでは消えたが、母親と二人で店に入ると、お客さんの相手が忙しくて、いつの間にか普段の自分に戻っていた。
「そろそろ閉めようかしらね。・・・千早、外の商品を入れておいてよ。あたし晩ご飯の支度してくるから。」
「ああ、分かった。今夜は何?」
「鍋にしようかと思って、お父さんは忘年会らしいし、お姉ちゃんはデートだっていうしさ。」
「ええ?!おふくろと二人で鍋??・・・」
半ば引きつりながら言った俺に、
「あんた、彼女も出来ないくせに、生意気言ってんじゃないわよ。作ってもらえるだけ、有難いと思え!」
俺に吐き捨てるように言うと、母親はさっさと2階の自宅へと上って行く。
〔出来ない〕じゃなくて、〔作らない〕なんだけどな・・・。
ま、年頃の男が女の子の影もないんじゃ、母親としては複雑なところかな。
昔、さつきを紹介した時は、結構嬉しそうにしていたもんな・・・。
- - -
シャワーを浴びて、母親と鍋をつつきながら夕食をしている時だった。
玄関のドアが開いて、アネキが帰ってきたから「お帰り、早かったね。」と二人で声をかける。
入口に、ぼんやりと突っ立っているアネキの様子が変で、俺は母親と顔を見合わせた。
「・・・アネキ?・・・・どうかした?」
声をかけてみたが、返事はない。
「・・・寝る。」
「え?!」
ただ一言、寝ると言ったアネキは、そのまま自分の部屋へと行ってしまった。
「・・・なに、アレ?!」
俺が母親に向かって言うと、「フラれたんじゃない?」と、一言。
・・・アッサリしてんな、と思いつつ、アネキの付き合ってる人の顔を思い出す。
大きな建設会社に勤める人で、俺が出会ったのは一度だけ。
顔は、アネキの好きなナントカって俳優に似ていて、話し方がやさしい感じのする人だった。
まあ、5歳も離れているし、アネキは大学生で、色々話が合わないのかもな、と思った。
男と女、付き合っては別れ、また別の人を探す。
・・・なんだか、大変だな。
俺は、漠然とそんな風に感じるだけで、自分には関係のない事の様な気がした。
男と男は、所詮結婚出来る訳ではないし。
俺は、このままずっと独り身。
ちょっと淋しい気もするけど、憧れている人はいるし、まあいいかな。
布団に入ると、日中の忙しさから解放された俺の頭の中に、なぜか桂の顔が浮かび上がった。
この前の病室での事が思い出されて、気持ちがざわつく。
俺にしがみ付いて、なんて言ったっけ・・・?!
イチャつくな、とかナントカ・・・・・。
いや、・・・違うな。
俺が、誰かとイチャついてる姿は見たくないって、・・・そう言ったんだ。
嫉妬・・・・?!
彼女が出来ない男の嫉妬・・・・っていう訳じゃ無いよな。桑田さんと付き合っていたんだし。
・・・・・反対か、・・・俺が桂じゃない誰かと仲良くしてるのがイヤなのか・・・?!
て、事は・・・・・・・・・
あ、・・・・・っと思った。
前に、桂が桑田さんと手を繋いで歩く姿を見た時、俺の中にも沸き起こった感情。
あの時は、〔トモダチ〕をやり直す時間を桑田さんに奪われたような気がして、なんとなくモヤモヤしていた。
仲良しの友達を取られた子供の様だと思ったけど、・・・・・これは、嫉妬だったのかも。
俺の中の桂の存在は特別で、親友と呼べる相手である以上の何かを感じていたけど・・・・。
正直、柴田のメールで、桂と桑田さんがモトサヤにならないと分かった時、俺は安堵した。
何処かでは、アイツの側に誰かがいてくれたらいいのに、と思いつつ、それが自分じゃない事に不安を感じる。
俺は、桂を・・・・・・・?!
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