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第59話

 --- ゴクリ、--- 荒い息を吐く俺の耳に、喉の鳴る音が・・・。 「・・・か、つら・・・・。お前・・・・飲んじゃったの?」 恐るおそる聞いてみた。 「・・・・・・ん、・・・想像より苦い。・・・うぇ・・・。」 口を拭いながらそう言ったから、あっけにとられた。 「バカだな・・・・。ホント、バカ。」 枕もとのティッシュを鷲づかみにすると、桂の顔を擦る様にして渡した。 あんなの俺だってした事ない。 どうしてホモでもない桂があんな事知っていたんだろうか・・・。 少しだけ気になる。女の子にされた事あるのかな・・・・。 「ちょっと待ってて、今蒸しタオル持ってきて拭いてやるからさ。」 そういうと、シャツだけ羽織って部屋から出て行った桂。 俺は、一人ベッドの上で天井を仰ぐ。 心地いい疲れが、俺の全身を包み込むと、まどろみの中へと誘う。 身体はベッドに貼りついて起き上がれない程なのに、心は雲の上を漂っているようで。 桂のあんな男っぽい顔を見たのは初めて。俺の中で気持ちよくなっていた・・・・・。 そう思ったら一人恥ずかしくなる。 しばらくして、ビニール袋に蒸しタオルを入れた桂が戻ってきた。 「洗面器持ってこようかと思ったけどさ、あんまりガタガタしたら起こしちゃうからな。これで暖かいままだと思うけど、冷えてたらごめんな。」 「ううん、大丈夫だって。・・・・・なんか、優しいのな、お前。」 「・・・・ば~か、照れるだろ・・・。オレはいつだって千早には優しかったと思うけどな。」 「うん、そうだった。桂はみんなに優しいもんな。」 「え?・・・・違うって、オレは千早にしか優しくしないよ。他の奴らは目に入っていないんだから。」 「・・・・そうなのか?!・・・・・・へぇ・・・・・。」 なんだか益々恥ずかしくなった。 桂がこんなセリフを吐く男だとは思ってもみなくて。 俺の身体を丁寧に蒸しタオルで拭きながら、桂が言った。 「千早、・・・明けましておめでとう。」 「・・・・あ、・・・・そうか、年が明けたんだっけ。・・・・おめでとう。」 ちょっとにやけながら言ったが、タオルで身体を拭いてもらいながら、新年のあいさつをするなんて・・・・・。 まったく想像もしていなかった事が次々におこって、今年一年はどんな年になるんだろうと思った。 身体を拭き終わると、新しい毛布で包んでくれる桂に、心から『好き』だと伝えたい。 やっと自分の気持ちに気づけて、少し遠回りをしたけど、俺はこれからも桂の側で笑っていたいと思う。 大人になっても、近くに居られたらいいな・・・・。 「明日の朝は、洗濯だ・・・。」 笑いながら俺の顔を見ると、桂が言った。 「ははは、・・・・正月早々洗濯かぁ・・・。ま、仕方ないよな、自分の後始末はしなくちゃ。」 「・・・・・すごく嬉しかった、・・・・千早とこうやって抱き合えて、・・・・ホント、ありがとう。」 急に桂が真面目な声になって、俺を見つめる。 「・・・・、ば~か、ヤメロ。そんなに神妙な顔で言われると恥ずかしいよ。俺だって桂と・・・・・、俺も嬉しいんだからさ。」 「うん、・・・」 互いにくっつき合って、おでこを付ければ笑みがこぼれる。 ここまで来るのに、2年。 そう思ったら、この2年の歳月があったからこそ、俺たちは互いに大事な存在なんだと気づけたんじゃないかな。 何処かでいつも桂の事を考えていた。桂もまた、俺の事を想ってくれていたんだ。 互いの額から、ほんのり暖かさが伝わると、俺たちは自然に目を閉じて心地よい眠りについた。

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